科学本の言葉–40–(オリヴァー・サックスの言葉)
「なぜなら、健康はいかなる病気よりも深遠なものだからである。」――オリヴァー・サックス
「なぜなら」の前の文章からもう一度引用したい。つぎのように記されている。
「……あらゆる病気において、もう無駄だと思われたときにもなお、すばらしい、予想を超えた「説明のつかない」結果が起こるのを、私たちは何度も繰り返し目にしてきた。私たちは驚きや喜びとともに、こうしたことが起こるという事実と、それがL – DOPAを投与された患者にも起こる可能性のあることを認めよう。なぜ、そして実際には何が起こっているのかという疑問には、まだ答えることができない。なぜなら、健康はいかなる病気よりも深遠なものだからである。」(『レナードの朝〔新版〕』より)
『レナードの朝』は、当時「奇蹟の薬」と呼ばれたL – DOPAの投与による脳炎後遺症患者それぞれの「目覚め」と、その後の試練・順応を「伝記的」アプローチで描き出し、このような患者たちに対する医学のあるべき姿を見つめ、人間の本質に迫っていく一冊。
読み終えたあと、書評ページの「感想・ひとこと」には、こう書いた。ドーパミンなど様々な物質の想像を絶するバランスによって健康が保たれていることに驚くと同時に、それが崩れることの怖さも感じさせる。「健康はいかなる病気よりも深遠なもの」という著者サックスの言葉が心に残る。
この書評を投稿してからしばらく経つが、ふと、上述した言葉をもう少し長く引用して紹介しようという気になった。「健康は深遠なもの」という認識は、健康ビジネス隆盛の現代に生きる私たちにとって重要なものに思えたからだ。
オリヴァー・サックスの本では、さまざまな物質の想像を絶するバランスによって健康が保たれていることや、脳の適応力のすごさ、潜在力、不可思議さが浮き彫りにされている。
- 著 者:
- オリヴァー・サックス
- 出版社:
- 早川書房