超大質量ブラックホール(巨大ブラックホール)観測の話題に興味がある方におすすめの本
- 著 者:
- 本間希樹
- 出版社:
- 講談社
「史上初、ブラックホールの撮影に成功」。このニュースがメディアを賑わせたのは、今年(2019年)4月のこと。公開されたのは、おとめ座の方向にある楕円銀河M87の中心に存在する超大質量ブラックホールの「シャドウ」。ついに、視覚的にブラックホールの実在が示された瞬間だった。
この史上初の快挙を成し遂げたのは、「EHT」(Event Horizon Telescope)という国際プロジェクト。本書の著者・本間希樹はEHTプロジェクトのメンバーのひとりで、4月10日の記者会見に登壇した。その映像に接して、本書『巨大ブラックホールの謎』を手にした方も多いのではないだろうか。
『巨大ブラックホールの謎』が出版されたのは、2017年4月。今回発表されたM87の観測が行われたのも2017年4月なので、本書に書かれているのは観測直前までの話題だ。それでも、本書がEHTプロジェクトについて知るうえで最適な本であることに変わりはないだろう。
たとえば今回の記者会見では、望遠鏡は「視力300万」を実現したという話があった。本書『巨大ブラックホールの謎』では、どのようにして望遠鏡の「視力」が決まるのかを丁寧に解説している。また、「視力」を向上させた干渉計の技術的な話題もある。もちろん一般向けの解説だ。
また記者会見では、M87は「活動銀河中心核」の代表格であると説明し、今回の成果の天文学的意義として、「活動銀河中心核」の正体を解明したことを挙げていた。本書では、エドワード・ファスによるNGC1068(M77)の研究から始まるという活動銀河中心核の探究の歴史が語られている。
また、ブラックホールの実在が浮かび上がってきたのは、第二次世界大戦後に電波天文学が急速に発展し、X線天文学が幕を開けたからだが、本書では電波天文学の歴史とX線天文学の幕開けについても知ることができる。(著者は電波天文学者なので、電波天文学の歴史のほうに力が注がれている)
記者会見では、「スパースモデリングを用いた画像解析手法」を開発したという話もあった。本書では、このスパースモデリングについても解説している。
このように電波天文学の技術的な話題と研究史的な話題とをバランスよく盛り込んでいるところが、本書の魅力。そして、ブラックホールの中でも超大質量ブラックホールに焦点を当てているのが本書の特徴だ。
今回のEHTのニュースに接し、超大質量ブラックホールに興味をもち、それを知るための本を探しているのなら、本書をおすすめしたい。内容については書評ページを。