神経科学を一般書レベルで学びたい方におすすめの本
- 著 者:
- デイビッド・J・リンデン
- 出版社:
- インターシフト
単行本の書名は『つぎはぎだらけの脳と心』、文庫版の書名は『脳はいいかげんにできている』。(私は単行本を読んでレビューを書いている)
この本では、前半部分でしっかりと神経科学の基礎を解説し、その後で、「感覚と感情」「記憶と学習」「愛とセックス」「睡眠と夢」「宗教」といったテーマを論じていく。
ここでは、「愛とセックス」の章をすこし紹介してみたい。
まず、アンドレアス・バーテルとセミール・ゼキの実験について。
被験者は、「狂おしいほどの恋愛をしていると自ら主張する」20代の男女で、「恋愛相手との交際期間が二年を超える人」だ。
この被験者たちを対象に、つぎの二種類の写真を見ているときの脳活動を調べた。一つは、「愛する人の顔写真」を見ているときの脳活動。もう一つは、「年齢が近く、知り合ってから一定以上の期間が経つにもかかわらず、強い恋愛感情や性的関心を抱かない異性の友人の顔写真」を見ているときの脳活動。この二つを比較することで、「恋愛のみに対応して活動する脳の部位」を明らかにしようという実験だ。
結果は、「愛する人の顔写真を見た時には、島と前帯状皮質(感情に訴える情報を処理する際に重要な役割を果たす部位)など、離れた位置にあるいくつかの部位の活動が盛んになる」ことがわかった。こう続く。「驚くのは、被殻や尾状核、小脳など、一般には感覚と運動の調整に関与していることで知られる部位が盛んに活動することである」
ここから先が、ちょっとおもしろい。上記とは別のグループが同様の実験を行った。この時の被験者は、「恋愛初期にある人」で、相手との交際期間が2~17ヶ月の人だ。
結果はほぼ同じなのだが、違いがあったという。その違いを、つぎのように記している。
「交際期間の短い人の場合は、共通して腹側被蓋野にも盛んな活動が見れらたという点が、長く交際している人と違っていた」
「腹側被蓋野」は、「報酬」に深く関与する部位で、「快い感覚に強く反応する」。そして、この部位は、ヘロインやコカインによって活性化される部位でもあるという。
著者は、こんなふうに述べている。
「ヘロインやコカインを使った場合と同様、恋愛初期にいる人には判断力が極端に低下するという現象が見られる。特に、恋愛の対象に関する判断力は低くなってしまう。……略……。愛は確かに強力な麻薬なのだ。その効き目はそう長くは続かない。これも麻薬に似ている。愛の場合、効いているのは、せいぜい数ヶ月~一年というところだ。……略……」
著者はこの後、このような実験結果の解釈についての注意を促し、そして、さらなる実験(他人の性行為の映像を見ているときの脳活動はどうなのか、という実験)について紹介していく。
他にも、オーガズム、サルの性行動、など、多彩な話題が盛り込まれている。やはり脳部位などの専門用語を交えての解説だ。
本書では、このテーマにかぎらず、専門用語を交えて解説している。著者はこう述べている。「話を進めていく中では、少々、専門的なことにも触れる。読者が脳に関して「知りたい」と思うことを十分に理解するためには、ある程度、専門知識も必要だからだ」と。
この本は、神経科学を学ぶことができ、かつ、おもしろく読み進めることができる本。一般書で脳のことを学びたい方に、おすすめしたい。