細胞膜という境界を通して、生命の巧妙な仕組みを眺めてみたい方におすすめの本
- 著 者:
- 永田和宏
- 出版社:
- 新潮社
まず、この本は、専門用語がたくさん出てくる本だということを伝えておきたい。そのような本を好まない方には、おすすめできない。けれども、私たちの身体の仕組みが巧妙であることを知りたい方なら、あるいは生命とは何かに興味がある方なら、忍耐しつつ読んでみるのもよいかもしれない。専門用語がたくさん出てくるとはいっても、一般向けの本なので、忍耐できるレベルだと思う。たぶん…(忍耐力は人それぞれなので…)
さて、この本の魅力は何だろうか。
多彩な話題が、一本の軸に巧みに織り込まれていること。さまざまな知見に触れることができるが、けして総花的な解説ではないこと。そこが魅力だと私は思う。
スポットライトが当てられているのは、「閉じつつ、開いて」いる細胞膜。生命は、「閉じつつ開く」という困難をどのように克服し、細胞レベルでの恒常性を維持しているのか。これが本書の主題だ。この主題が、多彩な話題を通して浮き彫りにされる。
たとえば、つぎのようなことが述べられている。
私たちの消化管が「内なる外部」であること。「内なる外部」は細胞レベルでも存在すること。
「細胞の発見」(ロバート・フックの話題)と、細胞説が確立するまでの概説(マティアス・シュライデン、テオドール・シュワン、ルドルフ・ウィルヒョーの話題)
「生命の起源」にまつわること。
「コラーゲン神話」を否定する。生物学的な説明が丁寧になされている。つぎのように述べている。「コラーゲンを摂ったからと言って、それがそのままコラーゲンとして私たちの身体の一部になり、機能を発揮することはあり得ない」と。これは、熱を込めた説明のごく一部分。コラーゲンに「ちょっと熱が入りすぎ」るのは、著者・永田和宏の専門の一つがコラーゲンだから。他にも、著者の研究が垣間見える。
「カルシウムチャネルと花粉症」という見出しには、こんな記述がある。「花粉症で喘息や呼吸困難が引き起こされるのは、ヒスタミンによって膜上の呼び鈴が押され、それに応じてカルシウムが小胞体からサイトゾルに流れだすことが原因である」。もちろん、この記述も丁寧な解説のごく一部分。
他にも、コレステロール、糖尿病、免疫、など、さまざまな話題がある。
このように多彩な話題が盛り込まれているが、これらの話題は、一本の軸に巧みに織り込まれている。そして本書全体を通して、生命の巧妙な仕組みが浮き彫りにされる。