多田将の本、どれを読む?

素粒子物理と宇宙を、喩えを駆使してわかりやすく解説する、金髪の物理学者。ユニークな語り口も好評
多田将は、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所(茨城県つくば市)、准教授。昼間は、茨城県東海村にあるJ–PARCという実験施設に勤務している。(2016年7月に出版された『ニュートリノ』を参考にした)
ここで、ニュートリノ実験に携わっている。実験の概要は、つぎのようなもの。J–PARCで作ったニュートリノをビーム状にして発射する。そのビームを、295km離れた岐阜県の神岡町にある検出器スーパーカミオカンデでキャッチする。「T2K実験」という名前だ。
「T2K実験」の第1段階の目的は、「ミューニュートリノ」のビームを発射し、「ミューニュートリノ」が「電子ニュートリノ」に変化するのを検出することだった。そして、「ミューニュートリノから電子ニュートリノへの変化という、それまで人類が誰も見たことがなかった現象を、世界で初めて発見するという快挙」(『ニュートリノ』)を成し遂げた。
「T2K実験」は、2014年から、第2段階の実験を開始した。「それは、この宇宙に於ける、究極とも言える謎への挑戦なのです」(『ニュートリノ』)と語る。この内容については、『ニュートリノ』に詳しい。
多田将の本では、素粒子物理学の基本とニュートリノ実験を、喩えを駆使してわかりやすく解説している。また、専門は素粒子物理学だが、宇宙講義も行っている。
著書のほとんどは講演を元につくられており、その臨場感あふれるユニークな語り口と、巧みな喩えを用いたわかりやすい解説が、好評だ。
多田将の書籍
2017年5月時点で、多田将の著書(一般向け科学本)は、5冊。
素粒子物理学の基本から始めて、「ニュートリノ振動」を解説する『ニュートリノ』
著者らが行っている「T2K実験」は、2014年から、第2段階の実験を開始した。「それは、この宇宙に於ける、究極とも言える謎への挑戦なのです」と語る。この第2段階の実験の目標とはどのようなものか。それを伝えている本だ。本書は、素粒子とは何かから始めて、「ニュートリノとは何か」を述べ、反物質について解説し、ニュートリノの検出方法、そして本書のハイライト「ニュートリノ振動」、CP対称性の破れ、というような流れで、基本的な内容から難解なところへと、少しずつ階段を登っていく。喩えを駆使した解説。
- 著 者:
- 多田将
- 出版社:
- イースト・プレス
原子の構造から始めて、「核兵器はどのような仕組みによって爆発が起きているのか」を解説する『ミリタリーテクノロジーの物理学<核兵器>』
本書は、「政治的な、あるいは倫理的な話は抜き」にして、「純粋に物理学の観点から」、核兵器を解説したもの。核兵器だけでなく、原子炉の説明もある。原子核のこと、核融合反応と核分裂反応、など、基本的なことから解説している。講演を書籍化したもので、ちょっとしたエピソードも登場する。
- 著 者:
- 多田将
- 出版社:
- イースト・プレス
巧みな喩えを駆使して、宇宙のはじまりを語る。とくに、「宇宙が出来てから1秒後」にスポットライトを当てた『宇宙のはじまり』
第1章では、たとえば「温度とは何か」など、第2章を理解するために必要なことを説明。アインシュタインの一般相対性理論、宇宙の膨張、ビッグバン、などの話題がある。第2章で、現在から「宇宙のはじまり」へと遡っていく。第3章の章題は「宇宙と物質のQ&A」。これは、3つの講演での質問とその回答を、ピックアップしてまとめたもの。全3章。
- 著 者:
- 多田将
- 出版社:
- イースト・プレス
〝聞かせる〟宇宙講義。笑いを交えたユニークな語り口のなかに、著者の科学への真剣さが垣間見える『すごい宇宙講義』
(笑)という記述がたくさん出てくるユニークな語り口と、それにぴったりと合ったイラストで、独特の雰囲気をつくりだしている宇宙講義。巧みな喩えを用いた丁寧な解説だ。ときおり、解説のなかで、アニメの話が登場することもある。「ブラックホール」「ビッグバン」「暗黒物質」「そして宇宙は創られた」の全四章。ほかに、長めのコラムもある。「東京カルチャーカルチャー」で著者が行った全4回の連続講演を元につくられたもの。
- 著 者:
- 多田将
- 出版社:
- 中央公論新社
高校生に素粒子物理学(とくに加速器を使用したニュートリノ実験の最前線)を伝えた講義録『すごい実験』
中央大学杉並高等学校で、著者が行った4回の授業を元につくられたもの。授業の臨場感あふれる一冊。語り口もユニーク。「T2K実験」という、ニュートリノ実験の最前線を高校生に伝えている(T2K実験の第1段階)。生徒からの質問への回答を交えて授業が進むので、話に広がりが見られる。
- 著 者:
- 多田将
- 出版社:
- 中央公論新社
多田将の本、どれを読む?
大雑把にまとめてみると、こんな感じだろうか。
おもしろい読み物をお探しなら、『すごい実験』と『すごい宇宙講義』
多田将らが行っている「T2K実験」を知るなら、『すごい実験』と『ニュートリノ』
なるべく短い読書時間で知識を得たいなら、『ニュートリノ』と『宇宙のはじまり』
核兵器、原子炉に(あるいは核物理学に)興味があれば、『ミリタリーテクノロジーの物理学<核兵器>』をプラスする。
多田将ならではの笑いを交えたユニークな語りが全開と言えるのは、『すごい実験』と『すごい宇宙講義』。おそらく現時点で、多田将がもっとも力を注いだ著書は、『ニュートリノ』
はじめの一冊として私がオススメするのは、『すごい実験』。その主な理由は二つ。多田将らが行っている「T2K実験」(第1段階)をテーマにしていること。話に広がりが見られるので読み物としておもしろいこと。
最初に出版された本ということもあり、はじめの一冊としては、『すごい実験』がよいのではないだろうか。最前線で活躍している科学者が、高校生に講義する。この形式の本は、おもしろい。
- 著 者:
- 多田将
- 出版社:
- 中央公論新社
多田将 profile
1970年大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。