ブラックホールと時空の歪みーーアインシュタインのとんでもない遺産
書籍情報
- 著 者:
- キップ・S・ソーン
- 訳 者:
- 林一/塚原周信
- 出版社:
- 白揚社
- 出版年:
- 1997年7月
「アインシュタインのとんでもない遺産」を探究する科学者たちの物語
アルベルト・アインシュタインの一般相対論から、ブラックホール、時空の特異点、重力波、ワームホールとタイムワープが予測されるようだ。
本書は、こうした「アインシュタインのとんでもない遺産」の探究を、ブラックホールを中心にすえ、科学者たちの素顔や歴史を織り込みながら描き出した大著。
アインシュタインと「高名な一般相対論の専門家」である天体物理学者アーサー・エディントンは、ブラックホールは現実の宇宙には存在しないと考えていたようだ。
アインシュタインやエディントンなどの「世論指導者」らがブラックホールを否定するなかで、星の進化の研究は進む。本書は、白色矮星や中性子星にまつわる研究をおこなった科学者たちの物語を、臨場感あふれる筆致で綴っている。スブラマニヤン・チャンドラセカールとエディントンの論争、J・ロバート・オッペンハイマーとジョン・アーチボールド・ホイーラーの論争、「中性子星の概念を大いに吹聴した」フリッツ・ツヴィッキー、「中性子芯」を論じたレフ・ダヴィドヴィッチ・ランダウなどをとりあげている。
ホイーラーは、ブラックホールの命名者だが、はじめはブラックホールに懐疑的だった。ホイーラーは、著者キップ・S・ソーンの指導教授であり、この本の登場人物のなかで〝主役級〟といえるだろうか。ホイーラーの物語とともに、ブラックホールにまつわるさまざまな知見を紹介している。著者がホイーラーの研究室をはじめて訪れたときのエピソードなども披露している。
ほかに、ブラックホールの探索や「重力波」にまつわる話題がある。
スティーヴン・ホーキングやロジャー・ペンローズの物語もある。この物語とともに、ブラックホールの蒸発や特異点について述べている。また、著者が研究したワームホールとタイムマシンの話題も登場する。
本書では、こうしたさまざまな物語が綴られているが、そのはじまりとなるのはアインシュタインの物語だ。アインシュタインにまつわるエピソードとともに、特殊相対論と一般相対論を数式なしで解説している。そして、「シュヴァルツシルト幾何学」の解説へと続く。
プロローグでは、「SF物語」をとおして、本書のエッセンスを紹介している。
ひとこと
二段組みで552ページというボリュームなので、読書時間がたっぷりあるときにじっくりと読みたい。出版年は1997年で、「全米ベストセラー」だったようだ。それも納得の読み応えのある一冊。