ブラックホールは怖くない?ーーブラックホール天文学基礎編
書籍情報
- 著 者:
- 福江純
- 出版社:
- 恒星社厚生閣
- 出版年:
- 2005年11月
本書の読みどころは、ブラックホールのまわりにおける「物体の運動」及び「光線の振る舞い」について解説したところ
「吾輩はブラックホールである」。このような書き出しから始まり、まずは、ブラックホールが自身を紹介するという形でブラックホールを概観する。例えば、ブラックホールの種類について、つぎのように語っている。
「……略……吾輩の仲間では、軽いヤツでも、太陽の10倍ぐらいの体重がある。巨人の家系では、重いヤツになると、なんと太陽の1億倍もの体重をもつとんでもないやつもいる。……略……。そうそう、二本足共は、軽いヤツを「恒星ブラックホール」と、重いヤツを「銀河ブラックホール」とか「超大質量(超巨大)ブラックホール」と呼んでいるようだ。……略……」
「吾輩の仲間(兄弟)たちは、軽いヤツとか重いヤツだけではない。少し毛色の違う同胞もいる(図1・5)。吾輩自身は、丸くどっしりと落ち着いたブラックホールで、ときとして、「シュバルツシルト・ブラックホール」とも呼ばれる。吾輩は落ち着いた王者の風格をもっているが、落ち着きのない同胞もいて、「カー・ブラックホール」と呼ばれる同胞は、いつもグルグル回っている。……略……」
このような雰囲気で概観したあと、「COLUMN」でブラックホールの種類などを普通に説明している。
上記の説明を読むと一般向けのやさしい解説書に思えるが、実のところ本書は、(私の印象では)一般向けの本としてはハードな部類に入る。
上記の後は、アインシュタインの理論について概観。特殊相対論の基本から始めて、一般相対論の基本を解説するという流れだ。もちろん、一般向けレベルでの解説。ブラックホールの真の描像は、アインシュタインの「一般相対論」で明らかにされたもの。
一般相対論は、重力に関する理論。本書では、ニュートンの万有引力の法則との違いを記しながら、重力について説明している。
その後で、ブラックホールのまわりにおける「物体の運動」及び「光線の振る舞い」について解説する。この解説(「CHAPTER6」と「CHAPTER7」)が、本書の読みどころ。この二つの章の具体的な内容について、著者はつぎのように記している。
まず、「CHAPTER6」について。「…略…。具体的には、ブラックホールの中心に向けて落下する自由落下運動、ブラックホールのまわりを円軌道を描いて運動する円運動、そして太陽系内の惑星や彗星の軌道のような楕円軌道的な運動について、ニュートン力学と比較しながら説明しよう」
ここには、例えば、ブラックホールのまわりにおける「最終安定円軌道」の半径についての説明がある。最終安定円軌道の半径は、シュバルツシルト・ブラックホールでは、シュバルツシルト半径の3倍になるという。
もう一方の「CHAPTER7」では、「光線の曲がり、重力場での赤方偏移現象、そしてブラックホールの見かけの大きさについて、具体例を挙げて説明」している。ここには、例えば、「光子半径」の説明がある。光子半径は、シュバルツシルト・ブラックホールでは、シュバルツシルト半径の1・5倍になるという。光子半径とは何かから丁寧に説明している。
もちろん、「シュバルツシルト半径」についても説明している。このようなブラックホールのまわりにある「特殊な半径」について知ることができるのが、本書の魅力の一つだ。
また、著者は、説明図にもこだわったようだ。こう記している。「……略……空間の歪みや光線の曲がりなど、しばしばいいかげんな説明図で済まされるようなものも、相対論を用いてきちんと計算し、その結果を、視覚的にもわかりやすく表現した。……略……」
想定している読者については、つぎのように述べている。「高校生以上であれば、本書は十分に読めると思う。ブラックホールやブラックホール宇宙物理学に興味のある人、これから一般相対論を学ぼうとする人、さらには高校や大学において物理や天文学を教えている人たちに、本書を活用してもらえば幸いである。……略……」
最終章は、SF風の語りで「おさらい」。冒頭と最終章は気楽な読み物といった雰囲気で、その間の章は、しっかり学ぶ、といった感じ。
また、本文は言葉による説明だが、コラム的に「数式コーナー」がある。
(引用の際に、「,」は「、」に、「.」は「。」に変更した)
ひとこと
「ミンコフスキーダイアグラム」を一般に向けて丁寧に解説しているのも印象に残ったので、ちょっと紹介してみたい。
「相対論では特別な速度である光速度cを基準にして世の出来事を考える。そこで相対論では、ふつうの時空ダイアグラムではなく、「ミンコフスキーダイアグラム」と呼ばれる、光速度を基準にした特別な時空ダイアグラムを使う(図2・13)。……略……」
上記のような書き出しから、ふつうの時空ダイアグラムと比較しながら、ミンコフスキーダイアグラムを説明している。約4ページかけて、ミンコフスキーダイアグラムを説明。(時空ダイアグラムの解説全体で7ページ)。「ミンコフスキーダイアグラム」を一般に向けて丁寧に解説している本を探している方は、読んでみるとよいかも。
なお、NDC分類は「443」(大分類では「天文学・宇宙科学」)だが、当サイトでは宇宙科学と物理に入れた。