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かに星雲の話ーー超新星の爆発

書籍情報

【自然選書】
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著 者:
石田五郎/大谷浩/森本雅樹/浜田哲夫/早川幸男/小田稔
出版社:
中央公論社(現/中央公論新社)
出版年:
1973年10月

全六話からなる「かに星雲の話」。「専門を異にする」6人の著者が、かに星雲について論じている。最後に、「今後の課題をめぐって」と題した、著者らの議論が収録されている

1973年に刊行された本書を読んでみようと思ったのは、〝発見の時代〟と呼ばれる1960年代の、中性子星やブラックホールの発見について知りたいと思ったからだった。

中性子星やブラックホールは、1930年代、理論的にその存在が検討されていた。その理論上の存在が、本書の中の言葉を用いれば「幻の天体」が、1960年代になって、ついに観測によって浮かび上がってくるのだ。

第二次世界大戦後に「電波天文学」が急速に発展し、また「X線天文学」が幕を開け、発見の時代が到来した。

さて、本書の「はじめに」の書き出しを紹介したい。つぎのように記している。

「いまから900年余り昔、おうし座の一角に突然明るい超新星が出現し、燦然と夜空を飾ったことがある。これは星がその進化の最後に大爆発を起こしたもので、その跡に残されたのがかに星雲である。それ以来、かに星雲はいまに到るまで激しい多様な活動を続けて、電波から光、X線に至る広い波長域にわたって強い電磁波を放射しているものである。」

かに星雲は1054年の超新星の残骸で、その中心には「かにパルサー」と呼ばれる中性子星が存在している。

1967年に最初の「パルサー」が発見され、それ以降、「多くの天文学者がこの秒の程度、あるいはもっと短い、きわめて正確な周期で繰返し電波のパルスを送ってくるこの異様な天体に、とりつかれ、1969年夏までには30個ものパルサーが発見され、爆発的な勢いで多くの研究がなされた」という。

パルサーの正体が探究されていくなかで、1968年に、かに星雲のなかにパルサーが発見された。「かにパルサー」の発見によって、パルサーの正体が「自転する中性子星」であることが浮き彫りになってくる。こうして、「幻の天体」中性子星が、実在のものと考えられるようになってきた。それは、「超新星のなかに中性子星が生まれるという筋書きのまさにそのとおり」だった。

かにパルサーは電波のパルスだけでなく、光のパルス、X線のパルスも出していることが明らかになる過程も描かれている。かにパルサーがX線パルサーでもあることが明らかになるのは、1969年のこと。

かに星雲そのものは古くから知られていた。

生涯21個の彗星を発見した18世紀フランスの天体観測家メシエ(Charles Messier)は、1758年の彗星発見の時に、おうし座に一つの星雲を発見した。これが、かに星雲。メシエの記述よると、「……略……。これは1731年ベヴィス博士によって初めて観測され、英国版星図に記載されていた」という。

メシエは、似たような「微光天体」を発見し、それをリストにまとめた。「このような微光天体そのものにはあまり興味がないが、とにかくリストを作っておけば彗星発見のときまごつく心配がないと考え」ていたという。番号は、測定の日付順に付けられた。「メシエのカタログ(微光天体表)」は、1774年に刊行された。こうして、かに星雲は「M1」と名乗ることになる(Mはメシエの頭文字)。ちなみに他のカタログにも載っている。例えば、「NGC」と呼ばれるカタログでは、かに星雲は「NGC1952」

「かに星雲」Crab Nebulaというあだ名をつけたのは、ウィリアム・パーソンズ(William Parsons)別名ロス卿で、このあだ名は19世紀に付けられた。

そして1928年に、ウィルソン山天文台のハッブル(E.Hubble)によって、「かに星雲は1054年に出現した超新星に一致する」という考えが提示される。この考えは、後に確実なものとして裏付けられたという。

1054年の超新星については、藤原定家の日記『明月記』などに記されている。

本書では、かに星雲と1054年の超新星とがいかにして結びつけられたかが紹介され、かに星雲の電波と光がシンクロトロン輻射によるものであることが明らかにされる過程が描かれ、かに星雲以外の超新星残骸について語られ、白色矮星や中性子星といった高密度星の物理について解説され、宇宙線の超新星起源説について述べられ、X線天文学について語られている。X線天文学についての話では、Cyg X–1についても語られている。もちろん本書では、「かにパルサー」についても論じられる。他にも、さまざまな話題がある。

本書は全六話からなる「かに星雲の話」だが、その六話とは、「専門を異にする」6人の著者が、「それぞれの立場から、かに星雲について述べ、あるいはそれぞれのかに星雲との出会いを物語ったもの」

最後に、「今後の課題をめぐって」と題した、著者らの議論が収録されている。この議論について、「はじめに」につぎのように記されている。

「いろいろな専門家がそれぞれの立場から疑問をぶつけ合い議論したものだから、必ずしも判りやすいものではないかもしれないが、かに星雲にとりつかれた研究者たちの雰囲気をなまのままに伝えることにはなっているかもしれない」

当然ながら、著者らの議論に私はまったくついていけないのだが、それにもかかわらず、読んでいておもしろかった。それは、〝謎に挑むおもしろさ〟が伝わってきたからだと思う。

(引用の際に、一部漢数字をアラビア数字に直した)

ひとこと

白鳥座の「Cyg X–1」はブラックホール候補天体として有名だが、この話は少し書かれている程度なので、(念のために書いておくと)本書にはブラックホールの発見についてはほとんど書かれていない。

このレビュー執筆時点では入手困難になっている本だが、かに星雲とその中心にある「かにパルサー」について、また超新星残骸について興味がある方にとっては、結構おもしろい本ではないだろうか。難しい物理の話もたくさん出てくるけど、宇宙の本を読んでいて、〝「かに星雲」についてもっと説明してほしい〟と思ったら、図書館で借りて読んでみるのもいいかも。もちろん書いてあるのは、刊行された1973年までの話。

初投稿日:2019年05月27日

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