宇宙背景放射ーー「ビッグバン以前」の痕跡を探る
書籍情報
- 著 者:
- 羽澄昌史
- 出版社:
- 集英社
- 出版年:
- 2015年10月
2014年3月にはじまった「原始重力波発見騒動」の顛末を、現場の研究者ならではのエピソードを織り込みながら語り、また、「原始重力波」とは何か、「Bモード偏光」とは何かを解説する
2014年3月、「原始重力波」を検出したというニュースが世界中を駆け巡った。「宇宙論に関わる専門家にとって、それは天地をゆるがすほどの大事件だった」という。ビッグバン以前に起こったとされる「インフレーション」の決定的証拠を発見したという「衝撃的なニュース」だったのだ。この発表を行なった「BICEP2(バイセップツー)」は、じつは著者らのライバルグループ。著者も「原始重力波の検出」を目指している。もし、この発表に間違いがなければ、先を越されたことになる。多くの物理学者が受けた衝撃とは異なる「強い衝撃を受けた」と語る。
「しかしこの「発見」は、半年ほど経ってから、ほぼ間違いであることがわかった」という。本書の特色は、この「原始重力波発見騒動」の顛末を、現場の研究者ならではのエピソードを織り込みながら語り、また、「原始重力波」とは何か、「Bモード偏光」とは何かを、なるべくわかりやすく解説しようと試みているところ。
この本の書名は「宇宙背景放射」だが、著者らは宇宙背景放射(CMB)を観測している。そして、このCMBに「指紋のように残っている」原始重力波の痕跡を探している。その痕跡が「Bモード偏光」。つまり、「原始重力波の検出」という上記ニュースは、CMBを観測して、原始重力波起源のBモード偏光を発見したということ。BICEP2は「原始重力波起源のBモード偏光を発見した」と発表したそうだ。この発表が「ほぼ間違いである」というのは、「塵の影響によるBモード偏光である可能性があるということ」のようだ。本書では、CMBとは何か、宇宙のインフレーションとは何か、ということから解説している。
難解そうな本と思われるかもしれないが(実際、テーマは難解だが)、本書の雰囲気は、著者自身のエピソードがいくつも盛り込まれていることもあって、気軽な読みものといった感じだ。たとえば、チリのアタカマ高地にある実験施設「ポーラーベア(POLARBEAR)」(著者の職場)の話では、この高地では「ポテトチップスがやけに旨い」といった余談も披露している。
ほかに、実験物理学者である著者らしい「観測装置」にまつわる話も登場する。
ひとこと
上述の2014年3月のニュース、原始重力波、Bモード偏光、に興味のある方におすすめ。