真空のからくりーー質量を生み出した空間の謎
書籍情報
- 著 者:
- 山田克哉
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2013年10月
量子力学に基づく「真空」について述べ、その後で「ゲージ場理論」を一般向けに解説
著者は「はじめに」冒頭に、こう記している。「「真空は決して〝空っぽ〟の空間ではなく、複雑きわまる物理系であり、この宇宙のすべては真空から生まれた」ーーこれが、この本のメイン・テーマです。」と。
量子力学に基づくと、真空には「発生源のないエネルギー」が存在している(無数の粒子が発生・消滅している)という。この「発生源のないエネルギー」は絶対に直接観測されることはないそうだが、その実在は実験によって裏づけられている。
本書では、量子力学の基礎的なことから説明を始めて、量子力学によって描き出される真空とはどのようなものかを紹介し、「発生源のない真空のエネルギー」の実在を裏づける現象について詳述する。さらに、「「力が真空を伝わる」とはどういうことか」から説き起こして、とくに「弱い相互作用」について詳しく見ていき、質量を獲得するメカニズムを解説する。
「真空のエネルギー」の実在を裏づける現象
1948年、ヘンドリック・カシミールとディルク・ポルダーが、「真空内に平行に置かれた2枚の金属板の間に、外部から何のエネルギーを与えなくても引力が働くことを予想」したという。この現象は、「カシミール効果」と呼ばれている。
これは、「真空のエネルギー」によって2枚の金属板の間に引力が働くという予想(2枚の金属板は電気的に中性であり、電気引力は働いていない。また、「金属板程度の質量による重力はほとんど測定不可能なくらい小さい」ので、重力による引力でもない)。
「カシミール効果」は、提唱されてから49年が経過した1997年にスティーブ・ラモローの実験によって実証され、「その後も精度の上がった結果が報告されて」いるという。
本書では、カシミール効果とそれを実証したラモローの実験を一般レベルで丁寧に詳述している。
また、「真空のエネルギー」の実在を裏づけたというもう一つの現象である「ラム・シフト」についても説明している。
質量を獲得するメカニズムを解説
強い力、電磁力、弱い力、重力という4つの力が自然界に存在することを述べて、「「力が真空を伝わる」とはどういうことか」を説明していく。
力を伝達するゲージ粒子は質量がゼロでなければならないが、弱い力を伝達するゲージ粒子は大きな質量をもつ。この事実が多くの物理学者たちを悩ませたという。本書では、これがどのように解明されたのかを詳述している。
感想・ひとこと
「ゲージ場理論」がとても丁寧に解説されていて読み応えがある。また、〝「カシミール効果」がよくわからない〟という方も本書の説明を読んでみるとよいかも。