これが物理学だ!ーーマサチューセッツ工科大学「感動」講義
書籍情報
- 著 者:
- ウォルター・ルーウィン
- 訳 者:
- 東江一紀
- 出版社:
- 文藝春秋
- 出版年:
- 2012年10月
MITの名物講義。「身を張った実験」で、物理学の美しさを「体感」させる
本書を開くと、教壇で巨大な振り子の一部となって揺れている著者の姿が目に入る。その見返しの写真にはこう書かれている。「振り子の周期は錘の重さにかかわりなく一定である。錘のうえに、私が乗っても周期が同じか、やってみよう!!」
著者はマサチューセッツ工科大学(MIT)教授で、このような「身を張った実験」で学生たちを講義に引き込む。著者の講義は、MITのインターネット公開授業のラインナップに入り、世界中に多くのファンを持つ。本書は全15講により、物理学の美しさを「体感」させる。
2個のペンキ缶にライフルの銃弾が撃ち込まれる。一方の缶のふたが宙へ跳ね上がる。ふたが吹き飛ばされたのはどちらの缶か
「一方の缶は縁までいっぱいに水を満たし、きっちりふたをする。他方の缶にも同じように水を入れるが、縁まであと三センチ弱のところでやめておき、ふたをする」
缶は机の上に前後に並べて置かれ、そこに銃弾が撃ち込まれる。一方のふたが吹き飛ばされ、もう一方のふたは閉まったまま。どちらの缶のふたが吹き飛ばされたのか。
「その答えを知るには、空気は圧縮されるが水は圧縮されないことを、まず知らなければならない」と著者はいう。ふたが吹き飛ばされるのは、「水が縁までいっぱいに詰まった缶」。圧力についての講義は、こんな実験の紹介からはじまる。
「虹の物理学」「太陽を背にして自分の影が落ちる角度の四二度離れたところを見てみよう」
噴水で虹を見つける。シャワー中に手で虹をつかむ。虹を創りだす。さまざまな虹の話題を通して、虹の魅力や光の不思議を伝えている。「ブロッケンの虹」「ガラス虹」「白い虹」など、さまざまな虹の写真が掲載されている。
命の危険を冒しての実演。「エネルギー保存の法則を信じていますからね。ええ、一〇〇パーセント」
振り子の錘である15キロの鉄球が、著者の顎に向かって勢いよく戻ってくる。著者は本能的に歯をくいしばり、目を閉じる。鉄球は、顎の3ミリ手前で止まる。「へたをすると、命を落とすかもしれない」この実演を、なぜやろうとするのか。「それは、物理学のあらゆる学識の中で、最も重要な概念のひとつであるエネルギー保存の法則に、絶大な信頼を置いているからだ」という。
著者の専門分野であるX線天文学について
第10講から第14講は、著者の専門分野であるX線天文学についての講義。この分野の草創期に学究生活をはじめた著者が、X線によってとらえられる宇宙を語る。X線とは何か、X線天文学の誕生について、巨大気球によるX線観測、中性子星、ブラックホール、連星、X線バーストなどが解説される。
巨大気球によるX線観測のエピソード
「X線気球」に関する著者の体験が語られている。重さ900キロ余りのX線望遠鏡はパラシュートにつながれ、気球に搭載される。その気球を、高度4万メートル以上へ飛ばす。「オーストラリア大陸の真ん中にある幻想的な砂漠の街」での打ち上げ、データ回収の協力者である「気前のいいオーストラリア人の酔っ払いカンガルー・ハンター」のエピソードなどを交え、巨大気球によるX線観測について語られる。
最終章のなかで印象に残った著者のことば
「学生たちの人生できわめて重大なこの日に敬意を表し、また、彼らが知の頂きをきわめたことを祝う一手段として、わたしは六〇〇本の水仙の花を持ち込み、一本ずつ学生に手渡す」
「教える者にとって大切なのは、知識を箱にしまい込むことではなく、箱のふたを開くこと!」
ひとこと
物理学をもっと知りたくなる一冊。