宇宙の扉をノックする
書籍情報
- 著 者:
- リサ・ランドール
- 監 訳:
- 向山信治
- 訳 者:
- 塩原通緒
- 出版社:
- NHK出版
- 出版年:
- 2013年11月
多彩な話題で、科学的思考と手法を論じる
「ワープした余剰次元」の理論で注目を集めているリサ・ランドールが、科学的思考と手法を語った一冊。
本書のキーワードのひとつが「スケール」。原子以下の小さなスケールと宇宙のような大きなスケールを見ていくが、中心となるのは、小さなスケールの話題。
この小さなスケールの未知なる領域を開拓しているのが、CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)だ。著者は、測定や「素粒子物理学における正確さ」について論じ、LHCとその検出器であるCMSやATLASを詳細に解説している。また、このように装置を用いる「間接的な観測手法」を「発達させた最初のひとり」として、ガリレオの貢献を最初のほうでとりあげている。
LHCの実験と聞いて思い浮かべるのは、世界中の話題となったヒッグス粒子の発見だろうか。本書の内容はヒッグス粒子発見前のものだが、ヒッグス機構を数式なしで、一般向けの解説書としては詳細に説明しているので、興味のある読者にはこの解説も役立ちそうだ。
LHCの実験といえば、「LHCでブラックホールが生成されるかもしれない」と話題になった。「恒久的にLHCの操業を止めたくて」訴訟を起こす人物も現れた。本書では「たとえブラックホールが生成されても危険はまったくない」という著者の見解とその理由も述べられている。
宇宙の話題としては、ビッグバン、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)、宇宙のインフレーション、ダークマター、ダークエネルギーなどの話題がある。このなかではダークマターの話題が多め。ダークマターの検出実験がいくつか述べられており、LHCでダークマターが見つかる可能性もあるという。
本書は、「スケール」のほかにも、「宗教と科学の問題」「リスクや不確かさ」「創造性」などを論じており、ときには経済や創作の話題にも踏み込む。とくに創造性についての考察は一読の価値がある。
もちろん、「ワープした余剰次元」の理論も解説しているが、この理論を知るなら、前著『ワープする宇宙』を読まれたほうがよい。
ひとこと
著者は理論物理学者。本書は宇宙の話題もあるが、メインは素粒子関連の話題。ミクロな世界を探求する科学的思考と実験手法に興味がある読者向きの本。