ワープする宇宙ーー5次元時空の謎を解く
書籍情報
- 著 者:
- リサ・ランドール
- 監 訳:
- 向山信治
- 訳 者:
- 塩原通緒
- 出版社:
- 日本放送出版協会(現/NHK出版)
- 出版年:
- 2007年6月
余剰次元とブレーンワールドを解説した全米ベストセラーの日本語版。そこにいたる20世紀物理学も概説する
この世界はどんな成り立ちをしているのか。それを探る物理学がとてもクリエイティブであることが本書から伝わってくる。
著者は素粒子物理学の標準モデルの謎を追求し、「私たちが余剰次元のある世界にいる」という考えに辿り着いた。この世界には、私たちの知らない次元が存在しているという。
「まだ解明されていない大きな謎の一つは、重力がほかの既知の力に比べてなぜこんなにも弱いか」というもので、この謎を追求した著者は、ラマン・サンドラムと共同で「ワープした余剰次元」の理論を提唱した。「ワープした」とは「歪曲した」という意味。そしてこの理論には「ブレーン」が登場する。
ブレーンとは、高次元空間にある膜のような物体で、その呼び名は「膜(メンブレーン)」という言葉からきている。そして実は私たちは、このブレーン上に暮らしているのかもしれないというのだ。
著者は本書をこう説明する。「この本はあなたをブレーンワールドと、巻き上げられた次元、歪曲した次元、大きな次元、無限大の次元をもった宇宙へといざなう」と。まるでSFのようだ。
しかし本書はもちろん大真面目な理論物理学の本。ここで解説されている理論は、いわば現代のアインシュタインともいえるような天才物理学者たちが本気で考えている理論なのだ。だからこそ、おもしろい。数式なしで解説してくれる良書があることを嬉しく思う。
この不可思議な理論を、著者は「次元とは何か」から丁寧に説き起こす。そして相対性理論と量子力学、素粒子物理学の標準モデルというように20世紀物理学を概説する。さらに超対称性、超ひも理論と解説したのちに、著者らの提唱した余剰次元の理論を存分に語る。各章の冒頭には、その要約ともなっている短い物語が綴られている。本書は600ページを越える〝骨太〟な一冊だ。
ひとこと
著者は、「モデル構築——現在の観察結果の根拠となりうる理論を探求すること——」の魅力を、人跡未踏の雪面をすべるスキーヤーの心境にたとえている。本書はそのワクワク感が伝わってくるおすすめの一冊。