宇宙を創る実験
書籍情報
- 著 者:
- 村山斉(編著)/他
- 出版社:
- 集英社
- 出版年:
- 2014年12月
ILC(国際リニアコライダー)を建設する目的、その技術、社会的意義を語った一冊
第一部は、村山斉が宇宙論や素粒子の標準模型についての説明を交えながら、ILCという加速器を使ってどんな謎を解明していくのかを概説する。また、「村山斉のニューヨーク国連本部でのスピーチ」も掲載されている。
第二部・第三部は、12人の共著者(ロルフ・ホイヤー/ファビオラ・ジャノッティ/リン・エヴァンス/鈴木厚人/山崎直子/山下了/山本明/早野仁司/照沼信浩/田内利明/山本均/吉岡正和)の寄稿を一つの章とし、加速器実験による発見、ILCの社会的意義、加速器に関する技術などについて論じている。
ILCで宇宙の謎に迫る
1929年に宇宙が膨張している証拠が発見された。昔の宇宙は今より小さく、「どんどん時間を遡れば、その大きさは限りなくゼロに近づいていく」。宇宙には「始まり」があったと考えられている。
では、宇宙はどのように始まったのか。ILC(国際リニアコライダー)という加速器実験は、この問いに答えるために計画されているという。
昔の宇宙は、今の宇宙よりも「ものすごくエネルギーの高い状態」だった。「宇宙は「始まり」に近い時代ほどエネルギーが高い」。「その高エネルギー状態を作り出すのが、素粒子物理学で使う粒子加速器」だと述べ、つぎのように記している。
「高エネルギーで加速した粒子を衝突させ、そこで起きる現象を調べるのが加速器実験です。衝突時に発生するエネルギーが高ければ高いほど、実験装置の中では「より小さかった時代の宇宙」と同じような現象が起きると考えていいでしょう。」
これまでにも加速器実験でさまざまな成果が得られている。たとえば、CERN(欧州合同原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を用いた実験では、ヒッグス粒子が発見され、この発見で素粒子の標準模型は完成した。
しかし、標準模型だけでは説明できない謎が宇宙には数多くある。その謎に迫るための「大きなカギを握っていると思われるのが、ILCを使ったヒッグス粒子の研究」だという。
ILCに期待されている成果
ILCの役割として重要視されているのが、ヒッグス粒子を精密に測定すること。CERNのLHCで発見されたヒッグス粒子だが、その性質はまだよくわかっていないそうだ。この性質を解明することがILCに期待されている。
LHCとILCは相互補完的な役割を持っているという。LHCは円形加速器(リング)で、おもに陽子と陽子を衝突させる(別のハドロンを使う実験グループもあるとのこと)。ILCは直線型で、電子と陽電子を衝突させる。この違いについて喩えを交えながらわかりやすく説明し、ILCがヒッグス粒子の精密測定に適していることを論じている。
ほかにも、宇宙の謎の一つである暗黒物質の検出など、ILCに期待される成果はたくさんあり、それらについて述べている。
感想・ひとこと
2014年に出版されており、ILCの日本誘致を目指し、国民にその社会的意義を広く伝えることを目的としていると思われる。一般レベルで、加速器実験やILCの概要・技術について知ることができる。