超ひも理論を疑うーー「見えない次元」はどこまで物理学か?
書籍情報
- 著 者:
- ローレンス・M.クラウス
- 訳 者:
- 斉藤隆央
- 出版社:
- 早川書房
- 出版年:
- 2008年2月
余剰次元を含む理論が生まれるまでの物理学の発展を、SF作品や芸術の話題を織り込みながら辿り、これらの理論に冷静に疑問を呈する
私たちの知らない別次元がどこかに存在するのかもしれない――この空想は人を引きつけてやまず、これまでにも数多のSFが生み出されてきた。このSFの象徴ともいえるような別次元を、いま物理学では大真面目に検討している。別次元は「余剰次元」と呼ばれ、これを用いた理論がいくつも登場しているのだ。
こうした余剰次元に対する関心の多くは、「超ひも理論」から生まれているという。しかし、超ひも理論は実験により検証されたものではなく、数学的なものだ。その超ひも理論がもてはやされていることに著者は危惧の念を抱く。
本書のはじめのほうで、18世紀の化学者アントワーヌ・ラヴォアジエの言葉が引用されている。ラヴォアジエは、「見えも触れもしないものでは、想像の飛躍に注意しなければならない」という警句を発したそうだ。
本書は、電磁気の話題からはじまり、超ひも理論やM理論、ブレーンワールドにいたるまでの物理学の発展を、SF作品や芸術の話題を織り込みながら辿り、余剰次元のある理論がどのようにして生まれてきたかを明らかにする。そのうえで、超ひも理論やM理論、ブレーンワールドへの疑問を呈する。
著者の語るこの疑問は、批判と呼ぶほどの強い否定ではない。それどころか本書の大半は、著者がエピローグで述べているように、「われわれには直接感知できないところに存在する現実をまず想像し、それから探求するという、科学でも芸術でも驚くほど変わらず発揮されてきた人間の衝動の歴史に対するオマージュ」のようでさえある。
しかし著者は、「余剰次元の存在する可能性がいかに心躍らせるものであっても」、これに対して、不可知論者あるいは懐疑論者だと明言している。本書は、この立場から書かれたものではあるが、超ひも理論への疑問を論じるよりも、余剰次元のある理論が提唱されるに至るまでの物理学の発展を辿ることに大半のページが割かれている。
ひとこと
本書は数式のない一般向け解説書ではあるが、これまでに超ひも理論(超弦理論)の一般向け解説書を読んできた方を読者に想定していると思われる。はじめて超ひも理論に触れる方であれば『大栗先生の超弦理論入門』や、『ワープする宇宙』(20世紀物理学を丁寧に辿り、余剰次元とブレーンワールドを解説)を読んでおくと、本書が読みやすくなると思う。