「こころ」はいかにして生まれるのか
著 者:
櫻井武
出版社:
講談社
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「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた
著 者:
橋本幸士
出版社:
講談社
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免疫の意味論
著 者:
多田富雄
出版社:
青土社
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ブラックホールをのぞいてみたら
著 者:
大須賀健
出版社:
KADOKAWA
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これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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皮膚感覚と人間のこころ
著 者:
傳田光洋
出版社:
新潮社
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物理学者のすごい日常

書籍情報

【インターナショナル新書】
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著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
出版年:
2024年6月

気楽に読みながら、多彩な物理学の知識に触れられるエッセイ集

好評を博したエッセイ集『物理学者のすごい思考法』に続く第二弾。前作よりも長めになったエッセイが11篇収められている。(ほかに、前作に載せられなかった短いエッセイを4篇収録。)

ユーモアを交えて綴ったり、余韻の残るエッセイに仕上げたり、さまざまなタイプの読ませるエッセイを綴っており、それらを気楽に読み進めていくうちに多彩な物理学の知識に触れられるのが、本書の魅力。

物理学の知識については、「用語解説」という形式で説明が加えられ、「もう少し知りたい方」に向けての関連書籍も紹介されている。

AIと物理学の融合にまつわるエッセイ

著者の橋本幸士は、素粒子論・超ひも理論(超弦理論)を専門とする理論物理学者で、「学習物理学」領域代表でもある。

「学習物理学」というのは著者の造語で、機械学習(「AI(人工知能)の心臓部」)と物理学を融合する新学術分野だそうだ。

この分野がどのようにして誕生したかを描くところから始まるのが、『「学習物理学」って何?』という冒頭のエッセイだ。誕生にまつわる描写も読ませるが、その後の展開がおもしろかった。

著者は研究会である図に「ピンときてしまった」と述べ、つぎのように記す。

「その図には、オートエンコーダと呼ばれるある種の機械学習モデルが描かれていたのだが、その図が重力の量子論を取り扱うときによく用いられるブラックホールの図にそっくりだ、と感じたのだ。……」

AIとブラックホール?というその唐突さに興味をそそられていると、著者は大学1回生の時のゼミの先生から聞いた言葉を思い出す。先生は、こう言ったそうだ。

「僕たちがアインシュタインの重力理論を美しいと思うのは、その原理である『一般座標変換不変性』が、人間が外界を認知する方法そのものだから、だよね」

大学生だった著者は、先生が何を言っているのか全くわからず、それが「ずっと心に残っていた」という。

当然、一般読者の私にその言葉の意味がわかるはずもない。なんだかよくわからないのだが、おもしろい。続きが楽しみになる。難しい物理用語が出てきても興味をもって読み進められるところが、本書の魅力の一つだろう。(「一般座標変換不変性」については、本文や用語解説で説明される。)

このような話題を織り込みながら、AIと物理学についてさまざまな角度から述べていく。

他にどんなエッセイがあるのか。10篇を簡単に紹介

『天候を攻略する』というエッセイでは、たとえば「雨に濡れない方法」を物理学的な視点で考察している。ここでは、「終端速度」などの知識が紹介される。ユーモアを交えたエッセイ。

『父の他界』というエッセイでは、物理学者としての著者の死生観が描かれている。「ユニタリー時間発展」という用語が登場。

『SFと物理』というエッセイでは、物理学における「仮説が作られる仕組み」などが紹介されている。著者は、「宇宙=脳」という仮説の物理学の学術論文をいくつも執筆したという。SFが苦手な著者は、こう綴る。「ちょっと待てよ。宇宙が脳である、なんて、まさにSFのようではないか。」と。映画、音楽、アートと関わったエピソードを交えながら、科学を社会に広めることへと話は展開していく。

『1文字の価値』というエッセイでは、風呂場の鏡面に現れた文字列の話から、インターネット時代、AI時代の1文字の価値について考えていく。

『朝食の物理』というエッセイでは、たとえば桃の4等分に挑む著者のエピソードが披露されている。「桃はチャレンジングである。なぜなら、2次元球の多面体近似という問題に直面するからである。」。桃を切る話にこのような物理学用語が登場することが、ユーモアだと思ってしまう。桃、ちまき、ドーナツ、それらがテーマになっている。

『通勤の物理』というエッセイでは、バス、電車、徒歩、それぞれをテーマに綴られている。「混むバスを避ける秘策」では寺田寅彦の考察が紹介される。「満員電車で席を確保する物理学」には、物理学の基本プロセスを応用し、席を確保するエピソードが登場。これは、参考にできるかも。徒歩に関するエピソードでは、理論物理学者の日常が垣間見える。

『時の流れの愉しみ』は、「流れ」をテーマにしたエッセイ。「流れ」をコントロールするのは難しいという。家族の一人が新型コロナ陽性となり、家の中の空気の「流れ」をコントロールする著者の取り組みなどが述べられている。もちろんタイトルのとおり、現代物理学の知見をもとに、「時の流れ」についても考察している。

『最高の食』というエッセイでは、小学生の娘の問いをきっかけに、「最高の食べ物」の評価基準に思いを巡らせ、食べ物の形に目を向ける。著者が選んだ最高の食べ物とは? 「かたち」にフォーカスしたエッセイ。ここでは「弾性」などの用語が解説されている。

『貧乏ゆすりの物理学』というエッセイでは、振動に関する知識が紹介される。「重ね合わせの原理」を利用して相手の貧乏ゆすりを撃退できるか、そんな話が繰り広げられる。

最後(長めのエッセイの最後)が『阿房数式』。理論物理学者の研究の世界が垣間見える。

感想・ひとこと

長めのエッセイもおもしろい。今後も物理学エッセイを書き続けてほしい著者。

なお、書籍情報下のキーワードは、素粒子論・超ひも理論(超弦理論)を専門とする物理学者のエッセイ集なので、素粒子とした。

初投稿日:2024年08月05日

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