免疫から哲学としての科学へ
書籍情報
【単行本】
- 著 者:
- 矢倉英隆
- 出版社:
- みすず書房
- 出版年:
- 2023年3月
免疫は「生命と不可分の機能」であり「最も古く、最も普遍的な認知装置」という論を展開
著者は、長年にわたり免疫学の領域において研究してきた科学者。その30年あまりの経験の後に、フランスで科学と哲学に関する研究に取り組み、「科学の形而上学化」を提唱している。
本書では、免疫に関する科学の成果を検討し、免疫は「生物界に遍く存在し、生命と不可分の機能である」、「生命の根底を成す機能である認識と記憶を支える最も古く、最も普遍的な認知装置である」という論を展開し、さらに哲学的な考察を加えている。
ここでの「認知」という言葉には、「すでに細菌の免疫システムにおいて確認できる四要素ーー認識機能、情報処理機能、外界に対する適切な反応機能、そしてそれらの経験の記憶機能ーー」を含めるとしている。
免疫に関する科学の成果を検討する
免疫を説明するために提唱された理論や仮説、自己と非自己の問題、免疫記憶、免疫システムと体内のほかのシステムとの相互作用、細菌・植物・無脊椎動物・無顎類の免疫システムについて見ていき、上述した論を展開していく。
免疫理論の発展については、多くのページを割いて丁寧に辿っているので、本書の特徴のひとつと言えるだろう。免疫学のパラダイムとして認められているバーネットのクローン選択説のほかにもさまざまな理論が登場する。たとえば、「証明されなかった壮大な仮説」ニールス・イェルネのイディオタイプ・ネットワーク理論や、イラン・コーエンが提唱した「認知パラダイム」に光が当てられている。
免疫の本質について考察する
著者の提唱する「科学の形而上学化」について述べてから、スピノザの「コナトゥス」やジョルジュ・カンギレムの「生の規範性」に照らして、免疫の本質について考察している。
感想・ひとこと
免疫は「最も古く、最も普遍的な認知装置」と論じているところに興味をそそられた。一般向けの免疫学の本を読んでから手にとったほうが読み進めやすいかも。
初投稿日:2024年10月05日