道程 オリヴァー・サックス自伝
書籍情報
- 著 者:
- オリヴァー・サックス
- 訳 者:
- 大田直子
- 出版社:
- 早川書房
- 出版年:
- 2015年12月
青年期以降を赤裸々に描き出した、脳神経科医オリヴァー・サックスの自伝
著者オリヴァー・サックスは、『タングステンおじさん』で、化学に魅せられた少年時代を綴った。本書『道程 オリヴァー・サックス自伝』では、その後となる青年期以降を赤裸々に描き出している。著者が何に夢中になり、どのような恋愛をし、どんなふうに仕事に取り組んできたのかなど、その生き様を、家族や友人との交流など多彩なエピソードをとおして浮き彫りにする。
著書にまつわる話題も豊富
脳神経科医であり作家でもあるオリヴァー・サックス。最初の著書である片頭痛の本(日本語版の書名は『サックス博士の片頭痛大全』)を書いたときのエピソードや、代表作といえる『レナードの朝』に関するエピソードなど、著書にまつわるさまざまな話題が登場する。
科学者たちとの交流を描きながら、「脳と心の関係」について論じる
最後から二番目の章「心についての新たな展望」では、「脳と心の関係ーーとくに意識の生物学的基盤ーー」に関するフランシス・クリックとの議論を、彼との手紙を交えながら記している。
例えばこんな話がある。1986年、サンディエゴで行なわれた会議、その夕食時にクリックは著者サックスを見つけ出し、自分の隣に座らせて「症例の話をしてくれ!」と言った。とくに「視覚が脳の損傷や疾患で変容するケースの話」を望んだという。
その後サックスは、『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』に書いた論文「色盲の画家の症例」をクリックに送り、それに対する返事(「ほんとうにびっくりするような手紙」)をもらった。その手紙の一部を引用しながら、彼との議論を紹介している。このようなかたちで、フランシス・クリックとの議論と交流を描き出していく。
また、この章では、ジェラルド・M・エーデルマンとのエピソードを織り込みながら、エーデルマンの神経ダーウィニズムについて論じている。著者はこう記している。「エーデルマンの説は、初の真に包括的な心と意識の理論、初めて個別性と自律性を生物学的に説明する理論だった。」
感想・ひとこと
これまでの著書を通して思い描いていたオリヴァー・サックスの人物像とは異なる一面が垣間見えた。『タングステンおじさん』、本書『道程』と読み進めれば、オリヴァー・サックスの人生が、彼自身の卓越した描写力によって、くっきりと浮かび上がってくる。
なお、NDC分類は「289.3」(個人伝記)だが、当サイトでは「脳/医学」に分類した。(書籍情報下に付けるキーワードは、脳神経科医の自伝なので「脳」とした。)