皮膚は考える
書籍情報
- 著 者:
- 傳田光洋
- 出版社:
- 岩波書店
- 出版年:
- 2005年11月
皮膚の「バリア機能」を解説し、また、皮膚と脳との類似性を示す。そして、皮膚科学の観点から東洋医学を考察。心を打つエピソードもあり
皮膚は「人間にとって最大の「臓器」だ」という。「皮膚は大まかに見ると、まず最も表面にある薄い表皮と、その下にある厚い真皮に分類」できる。本書では、おもに「表皮」の話題をとりあげている。
まず、「バリア機能」について解説する。私たちの「内なる海」である体内の水が流れ出るのを防ぐバリア機能は、角層が担っているそうだ。この角層の構造と、「表皮が角層を形成するメカニズム」を解説する。「表皮は常に自分のバリア機能や、それを取り巻く環境がどうなっているのかを認識して」いるという。
つぎに、バリア機能を担っているのは、「神経系などと同様、電気的なシステムであること」を述べる。ここでは、「表皮の中のイオンの分布」を見ていく。
さらに、表皮の「免疫装置」について、表皮のケラチノサイトが神経伝達物質を合成していることなどを論じる。
そして、ケラチノサイトにあるさまざまな受容体について述べる。著者らは、「TRPV1」と「P2X3」という受容体が、表皮のケラチノサイトにも存在していることを発見した。これらの受容体について(他のTRPシリーズについても)解説する。
また、ケラチノサイトには、脳と同じ受容体が存在しているという。著者らが行なった、「あれやこれやの神経系薬剤を皮膚に塗る」という実験について述べている。
ほかに、湿度変化と皮膚との関係や、心のストレスと皮膚との関係などを論じている。最後の方で、皮膚科学の観点から、東洋医学を考察する。
「むすび」の章では、「個人的な体験」を語っている。それは、2001年10月の日本生物物理学会総会での出来事。著者は、「「表皮ケラチノサイトにTRPV1とP2X3が存在する」というタイトルのポスターを掲示」して、それに興味をもつ来訪者を待っていた。ところが、著者の「ポスターの前は閑古鳥」で、「大変、情けなく哀しい状況」だった。「そろそろポスターを剝がして撤去する時間が迫って」いたとき、著者の「ポスターの前にかがみこんで、しきりにメモをとったりしている人」がいた。その人は、著者の「研究遍歴の中で常に光輝く研究者であった」松本元だった。「むすび」の章では、その出会いと、その後の交流を綴っている。松本元は故人となられたが、おそらく、著者にとって、心のなかにいつまでも存在し続けているメンターなのだろう。心を打つエピソードだ。
ひとこと
専門的な内容を読みやすい文章で解説している。