無の本ーーゼロ、真空、宇宙の起源
書籍情報
- 著 者:
- ジョン・D・バロウ
- 訳 者:
- 小野木明恵
- 出版社:
- 青土社
- 出版年:
- 2013年10月
科学や宗教など、さまざまな側面から無を論じる。その中心は、物理的な真空が古代から現代までどのように考えられてきたのかを論じること
まず、序章のなかの言葉を引用したい。さまざまな立場の人が無に惹かれ、それに取り組んできた様子が感じられる。こう述べている。
「さまざまな姿をもつ無は、何千年にもわたり人々を惹きつけてやまなかった。哲学者はそれを理解しようともがき、神秘家はそれを思い描けないかと願い、科学者はそれを作り出そうと励み、天文学者はそのありかを突き止めようとして失敗に終わり、論理学者は壁に跳ね返された。一方、神学者は、そこからあらゆるものを呼び出そうとし、数学者がそれに成功した。その間、作家や道化は、これ以上にないほどに無について楽しそうに大騒ぎをしてきた」
本書は、科学や宗教など、さまざまな側面から無を論じていくのだが、その中心は、物理的な真空が古代から現代までどのように考えられてきたのかを論じることだ。それを大きな柱とし、そこにもうひとつの柱である「ゼロ」を中心とした数学の話題を絡める、というのが本書の大枠。
どんな話題があるのかをざっと紹介してみる。
まず、無、ゼロを言葉の側面から眺め、芸術家や音楽家や作家たちによる無の表現をとりあげる。つぎに、記数法について、ゼロの起源について述べる。それから「無限」の話題がある。
パルメニデス、ゼノン、アリストテレス、エンペドクレス、アナクサゴラス、原子論者、ストア派など、古代ギリシアの哲学者の見解をとりあげる。たとえば、アリストテレスは「自然は真空を嫌う」と述べたが、原子論者は「空虚」の存在を受け入れた。
アウグスティヌスの見解を紹介するなど、キリスト教が無をどのように考えていたかを論じる。また、中世におこなわれた真空についての考察をとりあげる。
17世紀に行なわれた「空気圧」についての優れた実験について述べる。「持続した物理的な真空を初めて作り出したと思われた」エヴァンジェリスタ・トリチェリの実験や、空気圧に興味をもちさまざまな実験を行ったブレーズ・パスカルのエピソードなどを紹介している。パスカルは、物理的な真空が存在すると主張した。
そして、「エーテル」の話題がある。エーテルについてのアイザック・ニュートンの考察を辿る。また、アルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーの実験が、静止するエーテルの存在を否定したこと、アルベルト・アインシュタインの特殊相対性理論によってエーテルが終わりを迎えたことなどを論じている。
幾何学や空集合などの話題がある。
そして、一般相対性理論、量子的真空、宇宙の「インフレーション」といった話題をたっぷりと論じる。
ほかにも、多彩な話題を盛り込んでいる。「シェイクスピアの無」といった話題も登場する。
ひとこと
著者は、天文学者、数理物理学者。本書のNDC分類は410の「数学」だが、内容的に考えると、数学の話題もあるが、どちらかと言えば「宇宙科学」や「物理学」の本という印象をもった。そのため、当サイトのジャンル分類では「宇宙科学」と「物理」と「数学」の3つに入れた。