元素周期表で世界はすべて読み解けるーー宇宙、地球、人体の成り立ち
書籍情報
- 著 者:
- 吉田たかよし
- 出版社:
- 光文社
- 出版年:
- 2012年10月
医学的な視点に立ちながら、周期表を解説。伝えることの上手さが感じられる一冊
「周期表とは、量子化学の結論を、数式に頼らず表すものである」という。そして、「量子化学を理解していない人が教える周期表の知識は、単なるセミの抜け殻だ」ともいう。
著者は、大学で量子化学を専攻し、卒業後NHKアナウンサーとなり、その後医師となる。この経歴によって、この本の特徴が生まれているように思う。本書は、医学的な視点に立ちながら周期表を解説しており、また伝えることの上手さが感じられる一冊だ。
まず、「周期表はどのようにできているのか」「元素とは何か」といった基本を解説し、そのあとで周期表に照らしながら、さまざまな話題を論じていく。たとえば、著者はこんなふうに述べる。
「医学を学べば学ぶほど、人体の中には宇宙の成り立ちの痕跡が残っているという興味深い真実が垣間見えてくるのです。そうした生命の神秘も浮き彫りにしてくれるのが、周期表に他なりません」と。
著者は、人体を構成する元素、太陽系における元素の存在量などを解説し、「宇宙に多くある軽い元素が人体にも多く、宇宙に少ない重い元素は人体にも少ない」と述べる。しかし、「宇宙で2番目に多いヘリウム」は、人体には含まれていないという。これはなぜなのか。この理由も解説する。
また、「私たちはなぜ、動くことができるのか」という章では、「グループ1」であるナトリウムとカリウムについて論じる。
著者はこんなふうにも述べる。「周期表からは、元素の特徴や反応だけでなく、健康や医学についての知識も読み解くことができる」と。「周期表で人体がよく使う元素の真下にある元素は、毒性があることが多い」という見解を述べている。
「グループ18の希ガス」についての解説もある。著者は「希ガスの美しさ」を表現するにあたり、藤原道長が詠んだ有名な歌を用いている。ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、それぞれの紹介があるが、たとえばネオンのところでは、「ネオンサインの原理」の話題などがある。
東日本大震災による原発事故があってから、セシウムとストロンチウムは一般によく知られている。本書では、セシウムやストロンチウムを、人体が「間違って取り込む」理由を説明している。
レアアースの話題もある。この章の見出しは、「レアアースは〝はみ出し組〟ではない!」。ほかにも、元素の誕生にまつわる話題などがある。
ひとこと
量子化学という言葉で敬遠するような本ではない。読みやすい文章で書かれている。