シナプスが人格をつくるーー脳細胞から自己の総体へ
書籍情報
- 著 者:
- ジョゼフ・ルドゥー
- 監 修:
- 森憲作
- 訳 者:
- 谷垣暁美
- 出版社:
- みすず書房
- 出版年:
- 2004年10月
「脳が自己をつくる生物学的メカニズムを探求」する
「何が私を私たらしめているのか。何が人をその人たらしめているのか」。「脳が自己をつくる生物学的メカニズムを探求」するのが本書だ。この大きな問題に対する著者の見解をひとことで言うと、「あなたはあなたのシナプスだ」ということになる。
シナプスとは「ニューロン間の小さな間隙」のことで、ここは「脳内の情報の流れと蓄積のための主要なチャンネル(通り道)となっている」。この「脳機能におけるシナプス伝達の重要性を考え」て、著者は「自己のシナプス論」を唱える。
本書は、まず「自己」について、哲学的、心理学的に見ていくことからはじめる。そのあとで、神経科学の基礎知識をもたない一般読者のために、脳のしくみや発達過程を詳解する。
つぎに自己を語るうえで欠かせない「記憶」について解説する。明示的記憶(または陳述的記憶)と内示的記憶(または非陳述的記憶)の基盤となる神経回路を見ていく。ここでは海馬と扁桃体に焦点があてられている。著者は恐怖の神経メカニズムの研究者としてよく知られており、扁桃体にとくに精通している。
読者に脳に関する知識が備わったところで、「自己のシナプス論」の要といえる「シナプス可塑性」について論じる。シナプスは固定されたものではなく、修正可能なもの。シナプスは、私たちの経験により小さな変化を起こしている。ここで大切なのが、長期増強(LTP)のしくみで、このメカニズムが詳解される。
神経メカニズムが詳解されたあとで、「自己というものに対する神経生物学的な見かた」が述べられる。具体的には「知(認知)・情(情動)・意(モーティベーション)」という「心の三部作の構成要素」をそれぞれ、神経科学の見地から解説していく。また、「シナプスの病気」として、統合失調症、うつ病、不安障害を薬物療法と絡めながらみていく。
最後の章で総括する。著者はこう述べている。「生きるには多くの脳機能を必要とする。脳機能はシステムを必要とする。そしてシステムはシナプスによって接続されたニューロンでできている。私たちはみな同じ脳システムをもっている。それぞれの脳システムのニューロンの数も、誰でもだいたい同じだ。しかし、そのニューロンの接続のしかたは個々の人によって異なる。ひと言で言うと、接続の独自性があなたをあなたにしているのだ」
ひとこと
約500ページに及ぶ大著。本書は、「脳はいかにして、私を私たらしめているのか」という問題を扱っており、「いかにして意識が脳から生じるのか」という問題を扱っているわけではない。