夢を叶えるために脳はある
著 者:
池谷裕二
出版社:
講談社
No image
進化しすぎた脳
著 者:
池谷裕二
出版社:
講談社
No image
単純な脳、複雑な「私」
著 者:
池谷裕二
出版社:
講談社
No image
意識の川をゆく
著 者:
オリヴァー・サックス
出版社:
早川書房
No image
これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
No image
快感回路
著 者:
デイヴィッド・J・リンデン
出版社:
河出書房新社
No image

できない脳ほど自信過剰ーーパテカトルの万脳薬

書籍情報

【単行本】
No image
著 者:
池谷裕二
出版社:
朝日新聞出版
出版年:
2017年5月
【朝日文庫】
No image
著 者:
池谷裕二
出版社:
朝日新聞出版
出版年:
2021年3月

「週刊朝日」の連載エッセイ「パテカトルの万脳薬」をまとめたもの(第二弾)。最後に、人工知能について著者が考えていることを綴っている

『脳はなにげに不公平 パテカトルの万脳薬』に続く第二弾。「週刊朝日」の連載エッセイ(2013年9月6日号~2014年12月26日号)から抜粋して加筆・再編集したもの。著者は「今回の第二弾のほうが、私好みの文章に仕上がっています」と述べている。

ひとつのエッセイは、3~4ページで、各回は読み切り型。ただし、最後を飾るエッセイは、10ページある。そのエッセイのタイトルは、『人工知能が活躍する時代に』。著者は、「今後は、各個人が人工知能と独自にタッグを組む時代になるでしょう」と述べている。キーワードは「共存」だという。

他には、「できない人ほど「自分はできる」と勘違いしている傾向がある」と述べているエッセイ(『ユーモアがわかる人は自己評価が低い』)など、全部で63のエッセイがある。

精神力は「有限のリソース」

「ある物事を我慢すると、別の物事の忍耐力が下がってしまう」という。そんな実験結果を紹介して、著者はつぎのように述べる。

「…略…。自制心や意志力は有限のリソースなのです。この意味では、筋力と似ています。使えば疲弊する筋肉と同じように、精神力も無限に出し続けられるわけではありません。何かをがんばった後は、やる気や忍耐力、ときには道徳観さえ削がれます。これは「自我消耗」と呼ばれる現象です。」

この部分を読んで、精神力を筋力のように考えておくのは良いかもしれない、と思った。精神は目に見えないぶん、無理してしまう人も多いのでは?

上の引用の後、さらに、「自我消耗」を克服する方法は「ブドウ糖の補給」という知見を紹介し、血糖値とイライラ感の関係を調べた研究について述べている。

「選択肢の数」に関する研究

ジャムの試食販売をする特設ブースで、「全24種のジャム」を売る場合と、「全6種のジャム」を売る場合とを比較した。結果は、つぎのとおり。

ブース前を通りかかった客が足を止める確率は、「24種」では60パーセント、「6種」では40パーセント。

ところが、客が商品購入した率は逆だったそうだ。つぎのように記している。

「24種のブースでは、立ち止まった人のうち3%しか購買に踏み切らなかったのに対し、6種のブースでは30%もの人がジャムを買ってくれました。結果として、陳列する商品の種類が少ないほうが、7倍近い売り上げをあげたのです」

この実験を紹介しているエッセイのタイトルは、『「サービス精神」はほどほどに』

散歩と記憶の関係

こんな実験の話もある。55~80歳の男女60人に対して行われた実験。内容は、1日40分間の散歩を週3回続ける。

結果について、つぎのように記している。

「すると半年後には、海馬のサイズが平均2%拡大し、それに伴い記憶力も高まることがわかりました。海馬の増大率が高い人ほど、記憶試験でよい成績を収めました。散歩によって体内の「脳由来神経栄養因子」(通称BDNF)の分泌量が増加しますが、これが記憶増強の鍵を握っているようです」

このエッセイのタイトルは、『散歩は記憶力を高める』

他にも、記憶にまつわるエッセイがある。たとえば、つぎのような内容が紹介されている。

「「ぼうっとしている」のは、怠惰なようでいて、直前に習得した情報を記憶に定着させる大切な「脳作業」なのです」(エッセイ『ぼうっとすることが記憶力を高める』)

こんな話題もある。「近年、水分は健康のみならず、記憶力や学習能力にも影響することが明らかになってきました」(エッセイ『体の水分不足で記憶力が下がる』)

他にも、『睡眠学習は効果あり!』『記憶の持続にカフェインが効く』などのエッセイがある。

「本能は、ブレーキよりもアクセルが強い」

「人の脳には、食欲と同じく、関係性欲求の本能も強く備わっています」と著者は語り、そして、食欲の暴走によって「生活習慣病」が生まれるように、関係性欲求のブレーキが脆弱であるために「電脳習慣病」が成立するという。

著者は、「人にとってコミュニケーションとは何か。改めて問い直さなくてはいけません」と述べて、最後にバルザックの言葉を引用している。「孤独はいいものだという事を認めざるを得ない。けれども、孤独はいいものだと話し合う事のできる相手を持つことも喜びである」

ネズミが死ぬ瞬間の脳の活動とは

「ネズミの頭部に電極を取り付け、長期的に脳波を記録するという根気のいる実験を行い」、ネズミの死の瞬間の脳活動を記録したそうだ。

ステージ1、2、3と紹介していき、「驚くべきは、最後のステージ3」だという。

「ステージ3」について、こう記している。「ガンマ波が現れ、脳活動の停止まで続きます。ガンマ波は脳全体で同期していました。……略……」

この「ガンマ同期の脳状態」が詳しく調べられ、「……略……いわゆるトップダウンという脳情報の動き」であることがわかったそうだ。

トップダウンについては、こう説明している。「トップダウンとは、外からの感覚情報がなくても、脳内から情報を呼び起こす状態です。「想像する」「思い出す」といった作業をイメージしてもらえればよいでしょう。……略……」

ここから、「臨死体験」の話へと展開している。

他にも多彩な話題がある

部分的に抜粋して、いくつか紹介してみる。

「叱ると探索しようという意欲、つまり「自発性」が減ってしまうのです」(エッセイ『しつけは叱ってはだめ』)

「つまり、本人たちは「本心では気が合わない」という事実に気づいていないのです」(エッセイ『結婚後に絶望するカップル』)

「色覚の世界チャンピオンは、おそらく、シャコです。この甲殻類は、なんと12色ものセンサーを持っています。」……略……。ところがシャコは、「ほとんど色を区別できないことがわかった」という。(『色を感じる不思議な力』)

「「痛い!」と感じるときには、同時に「痛くない!」という脳内信号も走ります。痛みを消す神経物質はエンドルフィンやエンケファリンとして知られる「脳内麻薬」です。……略……」。こんな記述から、マゾヒズム的な話へと展開されるエッセイ『快感と不快は紙一重』

他にも、野生のゴリラに逢いに行った著者のエピソード、ネズミも後悔するという話、細菌にまつわる話、「iPS脳」の話、など、多彩な話題がある。

ひとこと

気楽に読めて、さまざまな脳科学の知見に触れることができるエッセイ集

初投稿日:2019年05月21日

おすすめ本

著者案内

レビュー「著者案内:橋本幸士」のメイン画像「著者案内:本庶佑」の画像「著者案内オリヴァー・サックス」の画像「デイヴィッド・J・リンデンの本、どれを読む?」メイン画像「デイヴィッド・イーグルマンの本、どれを読む?」メイン画像「井ノ口馨の本、どれを読む?」メイン画像「櫻井武の本、どれを読む?」メイン画像「多田将の本、どれを読む?」メイン画像「リチャード・ドーキンスの本、どれを読む?」メイン画像「福岡伸一の本、どれを読む?」メイン画像「傳田光洋の本、どれを読む?」メイン画像「マイケル・S.ガザニガの本、どれを読む?」メイン画像「アントニオ・R・ダマシオの本、どれを読む?」メイン画像「池谷裕二の本、どれを読む?」メイン画像「リサ・ランドールの本、どれを読む?」メイン画像「ジョゼフ・ルドゥーの本、どれを読む?」メイン画像「V.S.ラマチャンドランの本、どれを読む?」メイン画像「村山斉の本、どれを読む?」メイン画像「大栗博司の本、どれを読む?」メイン画像

テーマ案内