パパは脳研究者ーー子どもを育てる脳科学
書籍情報
- 著 者:
- 池谷裕二
- 出版社:
- クレヨンハウス
- 出版年:
- 2017年8月
- 著 者:
- 池谷裕二
- 出版社:
- 扶桑社
- 出版年:
- 2020年7月
脳研究者・池谷裕二の育児エッセイ、かつ、さまざまな知見を紹介する脳科学エッセイ
赤ちゃんは母乳を吸いながら呼吸ができる。これはヒトとしては驚異的なことだという。「なぜなら、大人はストローでジュースを飲んでいる間は、呼吸ができないから」。「実は赤ちゃんの呼吸器系は、進化の段階で言うとサルと同じ」だそうだ。
赤ちゃんは生まれた時、自分の形を知らないらしい。著者は、娘をくすぐって遊びながら、それを通して「娘の脳と体がどんなふうに発達しているか」を確認していたという。4ヶ月の頃、お腹をくすぐるとイヤがるようになったが、足をくすぐってもまだ足を引っ込めなかったそうだ。「体を認識するということは、自分の「身体の輪郭」を認識すること」であり、これは、「自分と他者との境界がわかることへの第一歩」だと語っている。
生まれてしばらくの間、赤ちゃんに「時間」の概念はないという。6ヶ月くらいで赤ちゃんに時間の概念が生じてくるらしい。
9ヶ月の頃、娘の大きな変化として、「親指と人差し指を使って、ボーロを「つまむ」ことができるように」なったという。この動作は、「精密把握」と言うそうだ。このような話から、「精密把握」と「握力把握」の話へ。人類は、精密把握ができるようになり、器用に道具を作ることができるようになった。「人類がここまで進化して高度な技術を発達させた秘訣の1つ」は、精密把握だそうだ。
9ヶ月の頃の娘のもう1つの変化は「共同注視」だという。「共同注視は、相手が興味を持ったもの(対象)に、自分も興味を向けること」と説明。これは、「協働作業を行うための基礎」だそうだ。
10ヶ月。頭をぶつけて「いたーい!」と患部を手で押さえる娘の話。著者はこう記す。「これは見逃せない変化です!頭は自分からは見えません。しかし、痛みの信号が、頭のその場所からきた神経情報だとわかるのですから」。ここから「痛み」に関する話を展開。
1歳2ヶ月。くつろいでいる著者のお腹の上に娘が馬乗りになってきたという。お腹の上でドスンドスンと暴れ、その痛さで著者は足をバタバタさせる。面白がった様子でその足を見ていた娘。2回目も同じことが繰り返される。3回目になると、著者が足をバタバタさせるよりも先に、娘は振り返って足のほうを見るようになったそうだ。そんな娘の様子を見た著者が思い出しことは、「ベイズ推定」。「ヒトの脳は、特にベイズ推定が得意です」と著者。
1歳3ヶ月。娘が先を予想するようになったという話。メロディの途中まで歌うと、続きを歌ってくれるそうだ。著者は、「先手を打つこと(予測して対処すること)」を最も大切な脳の機能だと考えている。このような話から、「気が合う」とは、どういう脳の状態なのかを調べた実験の話へ。つぎのように語り始めている。
「気が合っている状態では、2人の脳の状態が同期して、脳活動の波長がぴったりと合っています。さらに調べると、話を聞いている相手の脳は、その話を聞くよりも、わずかに「前」に活動をはじめることがわかります。これは意外な結果です。……略……。会話がかみ合えばかみ合うほど、聞き手の脳部位の一部は、話し手の脳よりも前に活動をはじめます。順序が逆になるのです。その脳部位は「予測」に関連した場所です。……略……」そして結論へ。
1歳5ヶ月。ここの見出しは、「「自分」が生まれた」。自分を認識することについて語っている。パパ(著者)の鼻と自分の鼻も区別でき、「これはパパの鼻……だから、指を突っ込んでいい!」と容赦なく指を突っ込んでくる、と綴っている。「自分の鼻には突っ込まないのに……」と。
ざっと紹介してきたが、まだまだ続く。本書では、娘が4歳になるまでの育児エピソードを綴り、そのエピソードをきっかけに脳科学のさまざまな知見を紹介している。
ひとこと
気楽に読めるエッセイ。約300ページ。正確に数えていないが、育児の話題と科学的知見の紹介が半々くらい。