つぎはぎだらけの脳と心ーー脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?
書籍情報
- 著 者:
- デイビッド・J・リンデン
- 訳 者:
- 夏目大
- 出版社:
- インターシフト
- 出版年:
- 2009年9月
- 著 者:
- デイヴィッド・J・リンデン
- 訳 者:
- 夏目大
- 出版社:
- 河出書房新社
- 出版年:
- 2017年5月
読者に「知識はまったくなく、知性は無限にある」、という考えのもとに書かれた、とても読み応えのある一冊
脳は「アイスクリームコーンのようなもの」と著者は喩える。「時間が経つにつれて進化を遂げ、コーンの中に、ひとすくいずつアイスクリームが積み上げられていった」という。進化的に古いアイスクリームは下にあり、新しいアイスクリームほど上にある。たとえば、私たちの脳幹や小脳、中脳は古いアイスクリームで、新皮質は新しいアイスクリームだ。新しいアイスクリームが上に積み重ねられても、古いアイスクリームはほとんど変化せずにそのまま残ったのだという。
たとえば、私たちが外部世界を「見る」とき、進化的に新しい視覚システム(大脳皮質にある視覚システム)が重要な働きをしている。この進化的に新しい視覚システムが損傷を受けて、盲目になってしまった人を被験者にして、つぎのようなことを頼むとする。被験者(盲目)の視野にペンライトを置き、「手にとってくれませんか」と頼むのだ。「何も見えない」という答えが返ってきても、「まあちょっとしばらく考えて、とにかくやってみて欲しい」と頼む。すると、偶然よりかなり高い確率でうまく手に取ることができるという。被験者は「当てずっぽうにやっているだけ」で、意識的には見えていない。この不思議な現象は、「盲視」と呼ばれている。
盲視は、進化的に古い視覚システムが関わっているらしい。中脳の視覚システムだ。
カエルやトカゲの場合、中脳が主要な感覚中枢となるという。「カエルが舌を伸ばして飛んでいる虫を捕まえる時には、中脳の視覚中枢が重要な役割を果たす」。人間の場合、中脳の視覚中枢は、限られた範囲しか利用していないそうだ。「ほとんどは、ある種の刺激に反応して、刺激の発生源に目を向けるという場合に利用される」とのこと。
中脳の視覚機能は、私たちの意識にはのぼらない。そのため、先述した被験者は「当てずっぽうにやっているだけ」と言うのだ。「進化的に古い部位の機能は、通常、自動的にはたらき、私たちがそれを意識の上で自覚することはない」。進化的に新しい部位の機能ほど、意識にのぼることが多くなるという。
本書では、まず、脳幹、小脳、中脳、視床と視床下部、扁桃体と海馬、大脳皮質というように説明していく。たとえば、私たちは、他人にくすぐられるとくすぐったいが、自分でくすぐった場合はそう感じない。これは、小脳の働きと関係しているという。そのような話を織り交ぜながらの解説だ。つぎに、ニューロンにまつわるさまざまな知見を伝授する。分子レベルでの解説。さらに、脳の発達の初期段階について見ていく。このようにして、最初の三つの章で、脳科学の基礎知識を読者に伝える。その後で、「感覚と感情」「記憶と学習」「愛とセックス」「睡眠と夢」「宗教」といったテーマを論じていく、というのが本書の大枠だ。
分子遺伝学の先駆者であるマックス・デルブラックの言葉につぎのようなものがあるそうだ。「話をする時は、相手に知識はまったくなく、知性は無限にあると思って話せ」。著者はこのような姿勢で、本書を執筆している。
ひとこと
〝脳について、専門書のような解説は必要ないが、一般レベルでなるべく詳細に解説してほしい〟という方におすすめ。
私は、単行本『つぎはぎだらけの脳と心』を読んでこの書籍紹介を書いている。