ダマシオ教授の教養としての「意識」ーー機械が到達できない最後の人間性
書籍情報
- 著 者:
- アントニオ・ダマシオ
- 訳 者:
- 千葉敏生
- 出版社:
- ダイヤモンド社
- 出版年:
- 2022年8月
身体と神経系は直接相互作用を行う一体のもの。この視点から意識の論考が展開される
意識にまつわる見解は科学者によってさまざまだが、著者ダマシオは、脳を中核とする神経系のみで考えるのではなく、身体も重要視している。すなわち、身体と神経系は直接相互作用を行う一体のものであるという視点から、論が展開される。
身体と神経系が直接相互作用を行うことについては、「内受容系」の解剖学的・機能的特徴に注目し、この特異性を説明している。
ダマシオの論考のキーワードの一つが「感情」であり、感情とは「内受容系が持つ独特な特徴や設計に依存している、完全にハイブリッドなプロセス」だという。「感情が存在するのは、神経系が私たちの体内と、そして体内が神経系と直接連絡しあえるという事実のおかげだ」。
感情は、身体内部の生命の状態を映し出している。
本書では、「感情」や「自己」など、著者の論考のキーワードをさまざまな角度から繰り返し説明して、意識について論じていく。
心の誕生、知性について
生物の歴史における初期段階は、単細胞生物だった。単細胞生物は「主に、ホメオスタシスの指令に順応した、精巧ながらも隠れた能力によって導かれる、効率的な化学的プロセスに基づいて行動する」。「感知」の能力を備えているが、心も意識もないと考えられている。
その後、多細胞生物になり、「高度に分化した、多少なりとも精巧な器官系」を持ち、神経系を持つようになると、「神経系は、複雑な身体の動きと、最終的には正真正銘の発明である、心の誕生の両方を実現する」という(「心」が傍点で強調されている)。「感情は、心の現象の最初の例の一つ」。
ホメオスタシスの指令は、単細胞生物と人間の両方で今なお働いているが、そのプロセスを支える知性の種類は異なる。単細胞生物は「非明示的な知性」のみだが、人間は「非明示的な知性」と「明示的な知性」を備えている。
「知性」については、こう記されている。「知性とは、すべての生物の全般的な視点から言えば、生存闘争が投げかける問題を首尾よく解決する能力を表す」と。
「心」については、さまざまな表現で繰り返し説明されているが、たとえば、つぎのように述べられている。
「私たちの心は、視覚や音を与えるイメージから、感情の一部を成すイメージまで、時間的に連続する多種多様なイメージで成り立つことがわかっている。」
「イメージ」という言葉についての説明もある。
意識は「特定の心の状態」
著者ダマシオの論考では、心と意識という言葉は区別されている。意識は「特定の心の状態」だと述べており、その表現として「意識ある心」(原語は「conscious mind」)という言葉を用いている。
たとえば、こう記されている。「……意識とは、いくつもの心的事象が寄与する生物学的なプロセスから生じる、特定の心の状態のことなのだ。」(「特定の心の状態」に傍点)
では、「意識ある心」すなわち「意識」は、どのようにして生じるのか。つぎのように述べられている。
「意識ある心が生じるためには、私自身の生体に関する知識、私を私自身の生命、身体、思考の所有者として特定する知識によって、素朴な心のプロセスを豊かにする必要があるのだ。」
本書では、「感情が存在し、感情の主体が特定されれば心に意識が宿る」という著者の考えが示されている。
感想・ひとこと
論考のキーワードがさまざまな角度から繰り返し説明されており、なんとしても読者に伝えようという著者の思いが感じられる。
わかりやすい本とは言えないけれど、それでもダマシオの本を読んできた方、たとえば『意識と自己』(単行本書名『無意識の脳 自己意識の脳』)や『進化の意外な順序』を読んできた方が手にとれば、わかりやすくコンパクトにまとめられていると思うかもしれない。
著者ダマシオの意識の本としては、『意識と自己』(単行本書名『無意識の脳 自己意識の脳』)が面白いのでこちらをおすすめしたい。でも、『ダマシオ教授の教養としての「意識」』は、これまでの著書に比べてページ数が少ないので(約200ページ)、まず本書を読んで理論の核心を掴み、そのあと他のダマシオの本を読むのもよいかもしれない。