無意識の脳 自己意識の脳ーー身体と情動と感情の神秘
書籍情報
- 著 者:
- アントニオ・R・ダマシオ
- 訳 者:
- 田中三彦
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2003年6月
- 著 者:
- アントニオ・R・ダマシオ
- 訳 者:
- 田中三彦
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2018年6月
「ソマティック・マーカー仮説」で世界的に知られている神経学者ダマシオが、意識とは何か、意識はどのように構築されるのかを、自己に焦点をあて、オリジナルの用語を導入して独創的に描き出す
著者ダマシオは、意識は進化の過程で生まれ発達してきたもの、と見なしている。少なくとも私たちヒトの意識は一枚岩的なものではないと捉え、「中核意識(core consciousness)」と「延長意識(extended consciousness)」の2つに分けている。
中核意識は、「いま・ここ」という瞬間的なもので、パルスの形で生み出されているという。この中核意識を基盤として延長意識が構築される。延長意識は、過去から未来へと時間的な広がりをもつとしている。
普段私たちが「意識」と呼んでいるものは、この延長意識だ。ただし、単純なレベルの延長意識はヒト以外のある種の動物にもあると著者は考えている。延長意識の極みが、私たちヒトの意識だという。
本書は、自己に焦点をあてて意識を論じているのだが、中核意識にともなうものを「中核自己(core self)」、延長意識にともなうものを「自伝的自己(autobiographical self)」と名づけている。
そして著者は、自己の「根源」は「脳のなかに表象されている有機体」であるとし、この非意識的な先駆けを「原自己(proto–self)」と名づけている。(これは、いわゆる「ホムンクルスの罠」に陥っていないことも説明される)
こうした用語を導入して意識の構築プロセスを論じていく。
意識はどのように構築されるのか
では、著者は意識をどのように捉えているのだろうか。こう述べている。「意識は二つの事実に関する認識の構築からなっている。一つは、有機体がある対象と関わっているという事実、もう一つは、その関係する対象は有機体に変化を引き起こすという事実、である」と。
神経学者である著者は、当然ながら、意識は脳で生じていると考えているので、認識の構築プロセスは、ニューラル・パターンの構築プロセスとして記述される。
「有機体」をマッピングするニューラル・パターン(マップ)は、脳幹核や視床下部など(他の脳部位の名称も述べられている)により構築される。これは、前述した「原自己」だ。「対象」をマッピングするニューラル・パターンは、対象の処理に携わる脳部位によって構築される。(対象が、顔なのか音楽なのか等によって関与する脳部位は異なる)。これらは、一次のマップ(first–order maps)と呼ばれている。
<有機体と対象が相互作用したことにより、有機体が変化した>ということをマッピングするニューラル・パターン、すなわち<有機体と対象の関係性>のニューラル・パターンは、時間順に、<はじまりの原自己のマップ>、<対象のマップ>、<変化した原自己のマップ>が「二次の構造」に再表象されることにより構築される。これは、二次のニューラル・パターンあるいは二次のマップ(second–order maps)と呼ばれている。
「二次の構造」は、著者の造語で、ひとつの脳部位ではなく複数の脳部位からなるとしている。その候補には、帯状回皮質、視床、上丘などがあげられている。
こうして「二次のマップ」が構築されることにより、「認識の感情」が生じ、そして「対象」のマップが強調されて、中核意識が生まれるとしている。「中核意識においては、自己の感覚はパルスごとに新たに構築される、かすかな、そして束の間の認識の感情の中に生じる」
中核意識を基盤に延長意識が構築される。延長意識の構築プロセスには、自伝的な記憶とワーキング・メモリが関与しているという。
本書のおもしろさは、意識を論じるうえで、「脳」だけで考えず、「身体」を重要視しているところにあるのではないだろうか。クオリア問題については論じられていない。
ひとこと
読むのがとても大変な本だと思うので、「おすすめ」とは言いにくいのだが、私のなかでは「おすすめ本」のひとつ。
2018年6月に文庫化された。文庫版の書名は『意識と自己』。私は単行本を読んでこの書籍紹介を書いたが、下記リンク先を文庫版に変更した。(追記:2018年7月27日)