生命の意味論
書籍情報
- 著 者:
- 多田富雄
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2024年9月
生命のあいまいさや多重性を浮き彫りにする
著者の多田富雄は免疫学者。本書では、ベストセラーとなった前著『免疫の意味論』で提示した、「超(スーパー)システム」という概念を拡張している。
「超(スーパー)システム」の例としては、免疫系、脳神経系、個体発生、ゲノムなどを挙げている。これらの生物学的知見の詳細に踏み込みながら論を展開し、生命のあいまいさや多重性を浮き彫りにする。著者は、つぎのように記している。
「私はこの本で、生命の持つあいまいさや多重性、しかしそれ故に成り立つ「超(スーパー)システム」の可能性について考えた。」((スーパー)は「超」のルビ)
本書が野心的なのは、「超(スーパー)システム」の概念を言語や都市などの「文化現象」にも適用して考察しているところだろう。この論考がとくに興味をそそる。
1997年に新潮社より刊行され、2024年に講談社学術文庫として再登場。
「超(スーパー)システム」とは、どのようなものか
単一の細胞が自己複製し、外的条件に応じて分化して多様なものを作り出す(自己多様化)。その多様なものを、すでに形成されている構造に適応するように選択淘汰(自己適応)して、「自己組織化」する。このように、自身を構成する要素そのものとその関係を自ら創出して、システム自体を「自己生成」してゆくシステムを、「超(スーパー)システム」としている。
こうした自己適応による自己組織化では「閉鎖構造」を作るはずだという。ところが、「常に外界に開かれ、外部からの情報をキャッチしながら、その刺激に応じて自分を変えてゆく」。「このやり方を「閉鎖性と開放性」」と著者は呼ぶ。
開放性をもとにして自己変革を続けてゆくためには、既存の「自己」に照合するのが原則となる(自己言及)。
そのゆくえは、「超(スーパー)システム」が、システム内外からの情報に応じて「自己決定」する。
上述したキーワードなどを用いて、「超(スーパー)システム」の特性について述べている。「超(スーパー)システム」の例としては、免疫系、脳神経系、個体発生、ゲノムなどを挙げる。
また、老化を「超(スーパー)システム」の崩壊過程として論じている。
言語、都市、企業、大学などを「超(スーパー)システム」として考察
「都市」の成立と発展過程について論じている箇所を紹介したい。
「多くの都市には、都市成立以前に核として存在した集合住居跡があったことが発見されている」という。まず著者は、原初の過程として、「ほとんど同質の住居が数を増やしていった」と想定する。「都市の原初の姿は、未分化住居の集合体であった」。
「しかし住居が増殖するにつれて、きわめて短期間のうちに必然的な分業が起こり、それを組織化する階層構造が生まれてくる。……」
このような書き出しから、都市へと発展してゆくさまを述べていく。
そしてバルセロナの都市構成を概観して、複製、多様化、自己組織化など、「超(スーパー)システムの技法が流用されている」という見方を示す。
「超(スーパー)システムとしての都市」は、歴史の「記憶」を持ち、この「記憶」によって「同一性(アイデンティティ)」を保ち、そのため、「自己」を持つようになるという。「超(スーパー)システムとしての都市」と「完全なブループリントによって計画された都市」とが比較され、都市計画についての提言もなされる。
都市についての論考は大まかにはこんな感じだが、ここからさらに、「超(スーパー)システム」としての企業、大学、官僚制などについて論じていく。
「言語」については別の章で、ゲノムに照らしながら考察している。その章の最後には、つぎのように記されている。
「原初のことばから現在の言語へ、そして最初の遺伝子から現在のゲノムへ、その道すじをひと通りたどってみると、両者がほとんど共通のルールに従って多様化し、組織化され、進化してきたように思われる。……」
「超(スーパー)システム」として言語を論じているところもおもしろい。
感想・ひとこと
専門用語が出てくるので読み進めるのがつらい箇所も多々あるかもしれないが、論考はとても興味深い。