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出版社:
新潮社
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進化の存在証明

書籍情報

【単行本】
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著 者:
リチャード・ドーキンス
訳 者:
垂水雄二
出版社:
早川書房
出版年:
2009年11月

「進化を支持する証拠」を提示した一冊

著者ドーキンスは、本書について、つぎのように述べている。

「進化を支持する証拠は日に日に増し、かつてないほど強力なものになっている。しかし、同時に、逆説的ではあるが、無知にもとづく反対も、私の知るかぎり最強になっている。本書は、進化の「理論」と呼ばれているものが実際に事実――科学における他のいかなるものに劣らず明白な事実――である証拠をまとめた、私の個人的な要約である」

「人為淘汰」から始めて「自然淘汰というダーウィンの偉大な発見」について論じる

「ダーウィンが舞台に登場するまで、なぜそんなに長い時間がかかったのだろう?……略……美しいほどに単純な考えに人類が気づくことを、何がいったい遅らせたのだろう?」。著者はこう述べて、「進化の発見は死せるプラトンの影響力によって、妨げられたのだ」と論じていく。

ダーウィンが生きた時代には、「本質主義」という言葉はなかった。「本質主義」の生物学版ともいうべきものが、「種の不変性」だという。ダーウィンは、「種の不変性」に反論した。その反論において、ダーウィンの「もっとも有効な武器は、家畜栽培化からの証拠」だった。本書は、「家畜栽培化」を取り上げる。

「家畜栽培化という過程から私が引き出したいと思っている要点は、野生動物の形状や行動を変えるその驚くべき力と、変化の速さである。……略……」

また、著者は、こう記している。「人為淘汰は、自然淘汰の単なるアナロジーではない。人為淘汰は、淘汰が進化的な変化を引き起こすという仮説についての、真の実験的――観察だけによるものに対する反語として――検証を構成しているのだ」と。(「アナロジー」と「実験的」に傍点)

イヌの育種、「花と受粉媒介者」など、たくさんの事例を織り交ぜて論じていく。

「私たちのすぐ目の前で」起こっているという進化の事例を紹介する

著者は、こう述べる。「進化的な変化の圧倒的多数は、いかなる人類が生まれるより以前に起こったのではあるが、いくつかの例は、あまりにも進行が速いので、一人の人間の一生のあいだに起こりつつある進化を自分の目でみることができる」

まず、「ウガンダのゾウにおける牙重量の変化」(1925年から1958年まで)のグラフを示し、「牙が短縮していくという統計学的に有意な傾向」があることを紹介する。これが、「本物の進化的傾向であるという可能性」を示唆する。

また、「アドリア海の島に生息するトカゲの研究」を紹介する。二つの島がある。1971年、「ポド・コピステ島」には、昆虫を主食とするシクラカベカナヘビがいた。「ポド・ムルカル島」には、いなかった。研究者たちが、「ポド・コピステ島から五つがいのシクラカベカナヘビを運んできて、ポド・ムルカル島に放した」。さて、2008年に、ある科学者たちが、この二つの島のシクラカベカナヘビを比較した。「ポド・ムルカル島」のシクラカベカナヘビは、「過去わずか三七年のあいだに、草食性に向かって進化してきている」という。

さらに、「実験室における四万五〇〇〇世代の進化」について詳述する。細菌学者リチャード・レンスキーと共同研究者たちによる、大腸菌を用いた「壮大な長期的実験」の話だ。「彼らの実験は現在進行形の進化のみごとな例証」だと、著者ドーキンスは賞賛している。「長い一日の終わりであなたが疲れ切っているなら、たぶんこの節は読まずにおくのがいいかもしれない」と著者が言うほど詳細な説明(「難解ではなく、ただ複雑に細部にこだわった」説明)

それから、ジョン・エンドラーによる「グッピー」の研究にまつわる話を紹介する。「雄に鮮やかな色を進化させる雌からの圧力」と、雄に「くすんだ色」(あまり鮮やかでない)を進化させる「捕食圧」(捕食者からの圧力)との兼ね合いによって起こる、グッピーの雄の体色の変化について述べている。著者は、つぎのように記す。「…進化は、異なる淘汰圧の妥協点を見いだすのである。グッピーに関して興味深いのは、異なった川でどのようにしてその妥協点が変化するかを、エンドラーが実際に見ることができたことである。しかし、彼はそれよりもずっとすごいことをなしとげた。彼は実験にとりかかったのである」

「多くの主要な動物群で、進化があったことを裏づける化石証拠はすばらしく強力である」という。本書では、そのような「化石証拠」を紹介している

たとえば、「魚類と両生類のほぼ正確に中間の特徴をもっている」という「ティクターリク・ロゼアエ」を紹介している。この話題では、魚側の「エウステノプテロン」「パンデリクチス」、両生類側の「アカントステガ」「イクチオステガ」について述べ、こう記す。「そこで残ったのは、両生類に似た魚であるパンデリクチスと、魚に似た両生類であるアカントステガのあいだの空白である」。そして、「ティクターリク・ロゼアエ」について述べる、という流れで紹介している。

ほかに、カメ類の化石の話題もある。つぎのように記している。

「……中国の三畳紀後期の堆積岩から発見された水生のカメで、年代は二億二〇〇〇万年前と推定されている。その学名、オドントケリス・セミテスタケア[甲羅が半分で、歯をもつカメの意]から推測できるかもしれないが、現生のカメ類とちがって歯をもち、実際に半分だけの甲羅をもっていたのである。また現生のカメ類に比べてはるかに長い尾をもっていた。……」。この記述から、「カメ類は進化的な時間を通じて、海と陸のあいだの往復を繰り返しているのだろうか?」というような考察を展開する。

もちろん、「人類化石」についても論じている。

本書の読みどころの一つ。「ほかの何にもまして明瞭」という証拠を提示

「ヒトの手とコウモリの手は明らかに――まっとうな人間なら誰も否定できない――同じモノの二通りの型なのである。このような種類の同一性を表す専門用語が「相同(homology)」である。コウモリの飛ぶことができる翼と、ヒトのものをつかむ手は「相同」なのである」。この記述から、「相同」の事例を紹介していく。

こうしたことから導かれる結論をつぎのように述べる。「現生動物の骨格のあいだに見られる類似性のパターンは、彼らすべてが一つの共通祖先に由来し、あるものは他のものより、ずっと最近になって分かれてきたものであるとすれば、まさに予想される通りのものだ」と。

そして、進化とは「遺伝的に制御された発生プログラムの変更なのである」という主張を展開していく。

ここから、著者ドーキンスは、「ほかの何にもまして明瞭」という証拠を提示する。つぎのように記している。

「……略……DNAの暗号[コード]も、個々の遺伝子そのものは変わるけれども、すべての生物を通じて不変である。これは本当に驚くべき事実で、ほかの何にもまして明瞭に、すべての生物が単一の祖先から由来するものであることを示している。遺伝暗号そのものだけでなく、第8章で扱った、生命活動を営むための遺伝子/タンパク質というシステム全体が、すべての動物、植物、菌類、細菌、およびウイルスを通じて同じなのである。ちがうのは暗号そのものではなく、あくまで暗号で書かれている内容である。そして暗号で書かれているもの――これら異なる生物すべてにおける実際の遺伝子配列――を比較しながら見ていくとき、そこには、同じような種類の、類似性の階層的なツリーが見つかる。私たちは、脊椎動物の骨格や甲殻類の骨格について見つけたのと同じ、実際にはすべての生物界を通しての解剖学的類似性の全体的パターンにほかならない、系統樹……略……を見いだすのである」(「系統樹」に傍点)

この系統樹にまつわる解説は、本書の読みどころの一つだ。

生物の体に記された歴史

「ローマ帝国の痕跡は身の回りのいたるところにあるのだ」。そのような話から、こう述べる。「生物の体もまた、いたるところに記された歴史をもっている」と。そして、そのようないくつもの事例を紹介していく。

たとえば、「イルカのはるかに遠い祖先が乾いた陸上にいたことを語る雄弁な証言」を記している。

また、つぎのような記述もある。「ダチョウやエミューは素早く走る動物でけっして飛ぶことはないが、遠い昔の祖先からの遺産である、ずんぐりして短い翼をもっている」。「飛べない鳥」の話題を取り上げている。

翅を失った(または退化させた)昆虫の事例も紹介している。「失われた眼」の話題もある。そして、「反回神経」などを取り上げて、「知的でない設計」について論じていく。

ほかにも、さまざまな話題がある

「年輪年代法」や「放射性年代決定法」の解説、「個体発生」にまつわる話題、「種分化」と「プレートテクトニクス理論」、「軍拡競争」、など。

最終章の章題は、「この生命観には壮大なものがある」

ダーウィンの言葉、DNA、太陽からのエネルギーのこと、生命の起源などの話題を織り込んで、「自然淘汰」を語る。著者ドーキンスは、本書をこう結んだ。

「私たちは、はてしない、きわめて美しくきわめて驚くべき種類[フォーム]に取り囲まれており、それは偶然ではなく、非ランダムな自然淘汰による進化の直接の結果なのである――自然淘汰こそ、考慮に値する唯一のもの、地上最大のショーなのである」

ひとこと

約600ページ。

初投稿日:2017年02月13日

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