エピジェネティクスーー新しい生命像をえがく
書籍情報
- 著 者:
- 仲野徹
- 出版社:
- 岩波書店
- 出版年:
- 2014年5月
エピジェネティクスの分子基盤を概説したのちに、エピジェネティクスとさまざまな生命現象や病気との関係を見ていく。そして、エピジェネティクス研究の現状を、公平に、冷静に、考察する
エピジェネティクスとは何か。その定義は「ワディントンによる提唱以来、少しずつ変わってきている」という。2008年に提案された定義は、「エピジェネティックな特性とは、DNAの塩基配列の変化をともなわずに、染色体における変化によって生じる、安定的に受け継がれうる表現型である」というものだそうだ。
著者は、「エピジェネティクスとは「染色体における塩基配列をともなわない変化」、もう少し専門的にいえば、「ヒストンの修飾とDNAメチル化による遺伝子発現制御」である」とまとめている。
「ヒストンの修飾」と「DNAのメチル化」がどのようなものかは、第2章「エピジェネティクスの分子基盤」のなかで解説する。この第2章は、本書の〝難所〟といえるところだが、著者は「次のことだけはしっかり頭に入れておいてほしい」という。それは、「ヒストンがアセチル化をうけると遺伝子発現が活性化される」、「DNAがメチル化されると遺伝子発現が抑制される」の2つだ。
「エピジェネティクスの分子基盤」を概説したのちに、エピジェネティクスとさまざまな生命現象や病気との関係を見ていく。植物の春化現象、プレーリーハタネズミの一雌一雄制、記憶、毛色の遺伝、がんや生活習慣病など、さまざまな話題がある。
そのあとで、「非コードRNA」などの話題をとりあげる。そして最後に、エピジェネティクスが生命観に大きな影響を与えるのかどうかを考察する。著者はつぎのような見解を述べている。「今の段階では、旧来の「ゲノムDNAによる遺伝」がすこし修正された、という程度にとらえるのが正しいのではないかと考えている」と。
著者の専攻は、「エピジェネティクス、幹細胞学」であり、エピジェネティクスの専門家が上記のように述べているところが興味深い。
「ものごとには、すべからく表と裏がある」と著者はいう。そしてこう続けている。「ポジティブな面とネガティブな面を公平に紹介することが、科学者のとるべき姿勢であるはずだ。その考えにもとづいて、面白さと重要さを紹介するだけでなく、あいまいなところや、これからの研究の難しさも含めて、エピジェネティクス研究の現状を書いたつもりである」と。
ひとこと
エピジェネティクスをどのように考えたらよいのか、著者の考察をぜひ読んでおきたい。本書には、生物学用語がたくさん登場する。