人類はどこで間違えたのかーー土とヒトの生命誌
書籍情報
- 著 者:
- 中村桂子
- 出版社:
- 中央公論新社
- 出版年:
- 2024年8月
生命誌を踏まえて現代社会のありようを問い直す
著者は、現代社会についてこう述べている。「経済成長という一つの物差しが示す、拡大・成長・進歩をよしとし、そのために効率だけに価値を置いた現代社会は、誰もが生き生きと暮らせる場になっていないのです」と。
このような社会のありようを、「生命誌(40億年の歴史を持つ生きものたちの歴史の中に人間を置く)」を踏まえて問い直し、これまで歩んできた道とは異なる「べつの道」(=「本来の道」と著者は言う)を探すことを試みる。
「本来の道」を探す際に大事なのは、世界観だという。現代の「機械論的世界観」からの転換が必要であるとして、「生命誌的世界観」を呈示する。その切り口としてたびたび登場する言葉が「『私たち生きもの』の中の私」。
本書では、40億年の生命の歴史を大雑把に見ながら、1万年ほど前の農業革命にフォーカスし、「本来の道」について考えていく。
「『私たち生きもの』の中の私」という見方を伝える
私たちの暮らしの中の話題(東日本大震災、新型コロナウイルス感染症、脱炭素など)や、生物学的知識(細菌、光合成など)を織り込みながら、生命誕生、真核細胞の誕生、生きものたちの上陸、ヒトの誕生といった生命の歴史を大雑把に見ていき、共食と育児、言葉と芸術といったヒトの特徴について述べている。このようにして、「『私たち生きもの』の中の私」という見方を伝えていく。
「土」に注目して農業を考え直す
「人類はどこで間違えたのか」。本書の回答は、1万年ほど前に起こった農業革命。狩猟採集から農耕への移行によって、拡大志向と格差が始まったという。しかし著者は、農耕そのものを否定していない。「生命誌的世界観」のもと本来の道を歩く農業を「生きものとしての農業」と呼び、土に注目して考えている。
感想・ひとこと
生命の歴史にまつわる知識も記されているが、それを得る目的で手にとる本ではなく、生命誌を踏まえて現代社会のありようを問い直すという著者の考えに興味のある方が手にとる本。