皮膚はすごいーー生き物たちの驚くべき進化
書籍情報
- 著 者:
- 傳田光洋
- 出版社:
- 岩波書店
- 出版年:
- 2019年6月
さまざまな動物・植物の「皮膚」を見ていき、皮膚と脳の観点から人間を考察する
「表皮を構成する細胞」ケラチノサイトを研究している著者・傳田光洋が、さまざまな動物・植物の「皮膚」の防御機能・交換機能・コミュニケーション機能などを紹介し、そして皮膚と脳の観点から人間を考察する。
皮膚については、冒頭でつぎのように記している。
「皮膚、肌、皮、いろんな呼び方がありますが、地球上に、皮膚のない生き物はいません。ここで「皮膚」と言っているのは、生き物のからだの表面を覆っていて、からだの中と、外の世界とを区別する薄い膜のことです。」
本書は125ページほどのコンパクトな一冊だが、さまざまな生物の「皮膚」について知ることができる。
大きな脳をもつ動物、「エレファントノーズフィッシュ」と「コウイカ」の表皮
とてもたくさんの動物・植物の「皮膚」が紹介されていて、興味をそそるものが多々あるが、このレビューでは、エレファントノーズフィッシュとコウイカの記述にフォーカスしたい。
「ゾウの鼻のような口先をした魚」エレファントノーズフィッシュは、「全身の表皮に電気レーダーを持っている」。「尻尾に発電器があって、体の周りに電場を作り」、「そこに生き物が近づいたり、障害物があると、全身の表皮のセンサーで感知」する。
また、大きな脳を持っている。「全体重に占める脳の重さの割合は、全体重を1とすると」、人間は「0・023」、エレファントノーズフィッシュは「0・03」と人間以上。ちなみに、フナは「0・001」、ネズミは「0・008」とのこと。
脳が大きいのは、皮膚表面にびっしりある電気センサーによってもたらされる、膨大な情報を処理するためだと考えられるという。
「コウイカ」というイカについて。
コウイカは、「全身の表皮でさまざまなディスプレイを行う」。「皮膚表面に周囲の色に合わせた模様を浮き出させたり、威嚇のために、電光掲示板のような動く模様を見せたりする」。「とても優れた情報処理能力を持っているはず」という。そしてコウイカも大きな脳を持っている。
これらの動物に関する知見は、以下に紹介する、本書の最後の考察にもかかわっている。
表皮と脳の「連携プレイ」
表皮が「五感を持っている」ことや、表皮と脳の類似性について説明し、人間が進化の過程で体毛を失ったのは「五感と情報処理機能を持つ表皮を、環境にさらすことが、生き残ることに役立ったためだ」という見解を示す。
体毛を失ったのは120万年前だと考えられており、「その頃から脳が大きくなってくる」。「高機能の表皮を持った動物」であるエレファントノーズフィッシュやコウイカも大きな脳を持っていることを踏まえて、こう記している。「つまり高機能の表皮を持つと大きな脳が要るのです」と。
そして、ホモ・サピエンスが繁栄しているのは「表皮と脳という二つの情報感知・処理機構の連携プレイのためだ」という考えを述べて、その考察を展開している。
感想・ひとこと
久しぶりに傳田光洋の本を読んだが、論考はやはりユニークで興味深い。
なお、NDC「481(一般動物学)」だが、当サイトの分類では「脳/医学」「生物」の両方とした。