進化のなぜを解明する
書籍情報
- 著 者:
- ジェリー・A・コイン
- 訳 者:
- 塩原通緒
- 出版社:
- 日経BP社
- 出版年:
- 2010年2月
進化論の概要がわかる一冊
進化とは何かから説き起こし、ときにダーウィンの言葉を織り込みながら、進化のおもな証拠を紹介していく。古生物学、遺伝学、生物地理学など、さまざまな分野の研究に基づいて「進化は事実」であると論じる。創造論とインテリジェント・デザインへの批判が随所に見られる。
現代進化論とは
「現代進化論は今でも「ダーウィニズム」と呼ばれるが、その内容自体はダーウィンが最初に提唱したものからはるかに先に進んでいる(たとえばダーウィンはDNAや突然変異のことをまったく知らなかった)」という。
著者は、現代進化論をこう要約する。「地球上の生命は、三五億年以上前に生存していた一つの原始的な種——おそらくは自己複製分子——に始まり、それがいつしか分岐して、多くの新しい異なった種を生み出すというかたちで漸進的に進化したのであり、そのような進化的変化のほとんど(すべてではないが)を実現させたメカニズムが自然淘汰である、ということだ」と。
上記の要約文は、6つの要素から成り立っているといい、それぞれの要素を見ていく。
「移行型」の化石
魚類と両生類のあいだの「移行型」の化石である「ティクターリク・ロゼアエ」や、最も有名な「移行型」の化石である「始祖鳥」などをとりあげて、「脊椎動物の上陸」や「鳥類の起源」などを論じる。鳥類は「獣脚恐竜」から進化したようだ。ほかに、クジラの進化も解説している。「クジラはほぼまちがいなく、ラクダやブタのような偶数個のひづめを持った哺乳類の一グループ、偶蹄目の種から進化したものだ」という。ここでも「移行型」の化石を紹介している。また、私たちヒトの進化については、ひとつの章を割いて論じている。
「痕跡形質」、「隔世遺伝」、「偽遺伝子」
飛べない鳥の翼、私たちヒトの虫垂など、いくつかの痕跡形質を見ていく。隔世遺伝は「先祖がえり」ともいい、たとえばヒトの赤ん坊に尾がついていることがあるのがそれだ。
痕跡形質や隔世遺伝の事例を紹介したのち、著者はこう述べる。「隔世遺伝と痕跡形質は、ある形質が使われなくなったとき、あるいは退化したときでも、それを形成する遺伝子がすぐにゲノムから消失するわけではないことを示している。進化はそれらの遺伝子を不活性化させることによって、その活動を中止させるだけで、それらをDNAから切り落としてはいないのだ」と。
このことから、多くの種のゲノムのなかに「偽遺伝子」が見つかるという予言ができるという。そして、「そのような偽遺伝子が見つかるだろうという進化論の予言はすでに十分に立証されてきた」と語り、偽遺伝子の事例を紹介する。
「胚発生は進化の証拠の宝庫」
胚発生のさまざまな不思議を見ていく。「あらゆる脊椎動物が魚のような胚から発達を始めるのは、あらゆる脊椎動物が魚のような胚を持つ魚のような祖先から派生しているからなのだ」という。また、「進化の証拠」として、ヒトの胎児の「産毛」などを紹介している。
「粗悪なデザイン」
著者は、「不完全なデザインは進化のしるしだ」と述べて、生物の「粗悪なデザイン」の事例を紹介する。「粗悪なデザイン」とは、「もしも設計者が――神経や筋肉や骨といった生物学的ブロックを使って――ゼロから生物を作ったのなら、生物にそのような不完全さはありえないという考えを示したものだ」という。すなわち、「インテリジェント・デザイン」への批判が込められている。
生物地理学による磐石の推理
「大陸」と「島」にわけて、それぞれに生息する種を見ていく。著者はこんなふうに述べている。「島に生息する種の分布が進化の決定的な証拠となることに気づいたのは、生物学史上最大の成果と言っていい発見の一つだった」と。
「ダーウィンは『種の起源』の第12章で、長年にわたる観察や書簡のやりとりから苦心して集めた事実を次々と報告して、優秀な弁護士のように自説を構築した」という。そして著者は講義でこの部分を好んで使うそうだ。「それは一時間ものの推理劇のようであり、一見すると無関係なデータの蓄積が、最後には水も漏らさぬ進化の証拠に結実するのである」という。
「進化のエンジン」
「進化のエンジン」という章では、「自然淘汰」と「遺伝的浮動」を解説する。また、別の章を設けて、自然淘汰の一部分である「性淘汰」を論じている。
「種の起源」
著者の専門分野である「種分化」を論じる章の見出しは、「種の起原」。著者によると、種分化の最初のステップは、個体群が地理的に隔離されることだそうだ。こうした考えは、「地理的種分化」というらしい。この章では、種の定義を解説し、おもに「地理的種分化」について述べている。ほかに、「同所性種分化」などの解説もある。
ひとこと
分厚い本だが、進化の概要をとらえることができる。訳者あとがき、原注、用語集、さらに読み進めるために、参考資料、図のクレジット、索引を含めて461ページ。