がん免疫療法とは何か
書籍情報
- 著 者:
- 本庶佑
- 出版社:
- 岩波書店
- 出版年:
- 2019年4月
「PD-1抗体によるがん免疫療法」など、免疫を中心に生命科学や医療について幅広く論じる
「おわりに」によると、本書は著者が以前執筆した2冊を母体としており、『いのちとは何かーー幸福・ゲノム・病』(岩波書店、2009年)の「第Ⅰ部」を第3章に収録し、『PD-1抗体でがんは治るーー新薬ニボルマブの誕生』(岩波書店、2016年、電子書籍版のみでの刊行)の全編を第2章に収録し、加筆修正しているとのこと。第1章、第4章、第5章は新たに書き下ろしたもの。
第1章では、免疫について概観する。第4章では、「生命科学の膨大な要素の複雑性・多様性、それに加わる階層性」について述べ、生命医科学研究への支援のあり方や科学ジャーナリズムについて提言している。第5章では、日本の医療について論じている。ほかに、2018年の「ノーベル賞授賞式後の晩餐会でのスピーチ」(翻訳したもの)が収録されている(3ページの短いスピーチ)。
本書の中心となる第2章、第3章の内容は以下のとおり。
PD-1にまつわる研究・開発の歴史
第2章では、がん免疫療法の基本的な考え方とその歩みから、著者らによるPD-1の発見、PD-1抗体治療の研究・開発・今後の課題までを論じている。
「従来のがん免疫療法の多くは、がんによって免疫系が抑え込まれているのを、もう一度元気にするために、自動車でいうところの〝アクセル〟をより踏み込む、という努力をしてきた」という。それに対して、PD-1抗体治療は、〝ブレーキ〟をはずす方法だ。
著者らは、1992年にPD-1を発見し、その後、PD-1が「免疫系のブレーキ役」であることを明らかにした。
「免疫系のブレーキ役」には、CTLA-4もある。ジム・アリソンは「CTLA-4をブロックすると、がんが抑えられる」という報告をした。
しかし、CTLA-4遺伝子のはたらきを失わせたマウス(CTLA-4遺伝子ノックアウトマウス)は、重篤な自己免疫病により生後5週間で皆死んでしまっていた。
それに比べて、PD-1遺伝子ノックアウトマウスは、「よりマイルドな症状だった」という。著者らは、「PD-1の方がはるかに良い、がん免疫治療のターゲットになると確信」し、研究を進めていく。
研究・開発の歴史を述べたあとで、PD-1の発見からがん治療の医薬品を生み出すまでに長い年月を要していることを挙げて、その視点から生命科学の研究に関する提言を行っている。
生命について考察する
第3章では、メンデルの遺伝の法則とダーウィンの進化論を「生物学の基本公理」と述べ、ゲノムや進化など生命科学の知見を紹介しながら、生命について考察している。著者は、本章の結びで、「……メンデルの法則とダーウィンの進化論の原理を遺伝子レベルでしっかりと理解することが「生命の思想」の理解への一番の近道である」と記している。
感想・ひとこと
上述したような内容であり、「がん免疫療法」の解説に特化している本ではない。著者らのPD-1にまつわる研究・開発の歴史がよくわかる。