ゲノムが語る生命像ーー現代人のための最新・生命科学入門
書籍情報
- 著 者:
- 本庶佑
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2013年1月
ゲノム工学技術の進歩によって明らかにされてきた生命科学の知見を解説し、進化の観点に立ちつつ生命観を描き出す
本書は、『遺伝子が語る生命像』(ブルーバックス/1986年初版)の改訂新版。52項目で構成され、各項目は「短い読み切り」の形式になっている。
メンデルの法則とダーウィンの進化論から説き起こし、「ゲノム工学技術の基礎となっている分子細胞遺伝学の基礎知識」と「ゲノム工学の技術」を解説。その技術導入によって明らかにされてきた生命科学の知見を紹介し、進化の観点に立ちつつ生命観を描き出す。さらに、ゲノム工学技術の社会への応用について考察する。(最後に、幸福感や医療などについて述べている。)
遺伝物質にまつわる発見は生命観に大きな影響を及ぼした
遺伝物質の構造はすべての生物において基本的に同じであることが解明された。これは、地球上の多様な生物が太古に生じた共通の祖先から進化してきたことを示している。
また、遺伝子の塩基配列の個体差(「多型」)は「予想以上に多い」ことが明らかになっている。これは、「個性の尊厳の物質的基礎」と考えられるという。
遺伝物質は確固不動のものではなく、ダイナミックに変動していることも発見された。この発見には本庶佑らも寄与している。「われわれの生命の営みは、融通性と柔軟性を持った多様なシステムの重層によってバランスよく制御されている。」
ゲノム工学の技術を一般向けに詳述
本書では、DNAの塩基の配列を決定する「マキサムーギルバート法」と「サンガー法」、「細胞へDNAを導入する」方法、DNAを増やす「PCR法」など、生命科学の発展をもたらした技術について解説している(8項目)。
もちろんゲノム工学の技術をいきなり解説するわけではなく、上述したように「ゲノム工学技術の基礎となっている分子細胞遺伝学の基礎知識」から説明するという配慮がなされている。DNAの構造といった基本から教えてくれている。
感想・ひとこと
私たち一般の生命科学に関する知識レベルを引き上げてくれる、読み応えのある本。「はじめに」によると、『遺伝子が語る生命像』(1986年初版)は、24刷まで版を重ねたそうだ。本書は、そのような好評を博した一冊の改訂新版。