宇宙はなぜこんなにうまくできているのか
著 者:
村山斉
出版社:
集英社インターナショナル
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眠れなくなる宇宙のはなし
著 者:
佐藤勝彦
出版社:
宝島社
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夢を叶えるために脳はある
著 者:
池谷裕二
出版社:
講談社
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あなたの知らない脳
著 者:
デイヴィッド・イーグルマン
出版社:
早川書房
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これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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生命海流
著 者:
福岡伸一
出版社:
朝日出版社
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「生命の40億年」に何が起きたのかーー生物・ゲノム・ヒトの謎を解く旅

書籍情報

【光文社新書】
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著 者:
林純一
出版社:
光文社
出版年:
2024年1月

「生命の基本単位はゲノムである」という生命観を論じる

本書は3部構成で、第1部では、生物、生命、ゲノム、遺伝子の定義を見直し、その再定義から見えてくる生命観を提示する。

第2部は、著者の言葉を用いると、「エピゲノム修飾を原動力としたゲノムの表現ツアー」だ。個体の形成と老化、子孫の形成を見ていく。

第3部では、生命の誕生からヒトの誕生まで、生命の40億年を概観して、「ヒトたらしめるもの」とは何かを考察する。

著者の林純一は、ミトコンドリアの専門家。

「生物」や「生命」の定義から議論をはじめる

まず、生物の定義を議論する。

教科書の生物の定義は、「細胞を基本単位とするもの」。ここから出発して、生物の主な特徴を挙げるなど、さまざまな論点を提示して議論を進めていく。そして本書における生物の定義を、ひとまず、こう記す。「自己複製する核酸を持つもの」。

しかし、このように定義すると、教科書の定義や一般的な常識と異なることになる。そこで著者は、「自己複製する核酸を持つもの」を「生命」の定義とする。

「生物:細胞を基本単位とするもの」
「生命・生き物:自己複製する核酸を持つもの」

こう定義すると、生命は、「細胞を基本単位とする生命(生物)」と「細胞を基本単位としない生命(ウイルスなど)」というグループに分かれる。後者には、ウイルスのほかに、プラスミド、ウイロイド、レトロポゾン、テロメア、「細胞誕生前の原始生命」が含まれる。

物質と生命の境界は、本書の生命の定義にすでに明示されているという。「自己複製する核酸」を持たないものが物質となる。

このような生命の再定義から出発して、さらにゲノムや遺伝子の定義を見直し、そこから見えてくる生命観について論じていく。

生命の40億年を概観する

上述したとおり本書の第3部では、生命の誕生からヒトの誕生まで、生命の40億年を概観している。

「生命の始まり」としてRNAワールド仮説を取り上げ、原核生物の誕生、真核生物の誕生にまつわる話題へと進み、植物、菌類、動物への分岐について述べていく。

そして、「動物の祖先」から「人類(ヒト)の祖先」まで、それぞれの進化の段階において獲得した遺伝形質および遺伝子についての記述を交えながら、進化を辿る。

この、「進化の段階」と「獲得した遺伝形質および遺伝子」についてまとめた図表があるので、その記述をいくつか紹介したい。

図表に記されている「進化の段階」は、「動物の祖先」から、「後生動物の祖先」「二胚葉動物の祖先」「三胚葉動物の祖先」……略……「脊椎動物の祖先」「顎口類(魚類)の祖先」……略……「人類(ヒト)の祖先」まで18項目あり、各段階における「獲得した遺伝形質および遺伝子」が示される。

たとえば、つぎのような説明がなされている。

「二胚葉動物の祖先」
「原口獲得。二胚葉性(外胚葉+内胚葉)、組織の分化、放射相称に。[以下、太字で]原口形成に必要な転写因子遺伝子の獲得。」

「三胚葉動物の祖先」
「中胚葉獲得。三胚葉性、左右相称に。[以下、太字で]原口形成に関わる転写因子の遺伝子を中胚葉形成に転用。前後軸に沿った組織形成を支配する遺伝子群を重複突然変異で獲得。」

図表の簡潔な説明を引用したが、本文でもこのように、「獲得した遺伝形質および遺伝子」に触れながら進化を辿っている。

もう少し紹介をつづける。

図表の「脊椎動物の祖先」の箇所には「核ゲノム重複(1回目)。……」、「顎口類(魚類)の祖先」の箇所には「核ゲノム重複(2回目)。……」(いずれも太字)という記述がある。

この「核ゲノム重複」に関して、本文ではつぎのような描写がなされている。

「染色体が1本増えるだけでも生存は難しくなる。にもかかわらず、私たちの祖先はすべての染色体(核ゲノム)の重複が2度起きても絶滅しなかったのだ。……」

このような、私たちへとつづく進化の道のりが奇跡的と感じられる描写も交えて、「核ゲノム重複」という大変革が、「複雑化を可能にした」ことなどを述べている。

レビューも長くなってきたが、「ヒトたらしめるもの」とは何かの考察についても少し触れておきたい。ここでは、「ヒトとチンパンジーの核ゲノムの違い」や「高度な認知機能の候補」遺伝子やスイッチについての解説を交えて、論を展開している。

感想・ひとこと

ゲノムを中心に生命と進化に関する多彩な知識が得られる。

初投稿日:2025年03月12日

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