ミトコンドリア・ミステリーーー驚くべき細胞小器官の働き
書籍情報
- 著 者:
- 林純一
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2002年11月
ミトコンドリアDNAにまつわる「ミステリー」を解き明かす。ミトコンドリア研究がリアルに伝わってくるのが魅力
細胞小器官ミトコンドリアは、核にあるDNAとは異なる独自のDNAをもつ。本書は、このミトコンドリアDNA(mtDNA)にまつわる「ミステリー」に焦点があてられ、謎解きをしていくような構成で論じられていく。謎を解き明かす著者の思考と分子生物学の手法が詳細に述べられており、ミトコンドリア研究がリアルに伝わってくる。ときおり著者の素顔も垣間見える。
著者は、就職先の埼玉県立がんセンター研究所で「ミトコンドリアDNAと癌との因果関係を探る」という研究テーマを与えられる。これが著者とミトコンドリアの出会いだったという。
本書の読みどころのひとつは、癌とミトコンドリアDNAの突然変異の関係を探る一連の研究が語られる第4章と第5章だ。制限酵素とは何か、「ミトコンドリア移植」の手法はどのようなものか、「遺伝子型」「表現型」とは何か、ときに専門用語をわかりやすく解説しながら、「癌ミトコンドリア原因説」を否定するに至るまでの研究について述べられている。
本書は、「老化ミトコンドリア原因説」も否定する。「ヒト繊維芽細胞で老化ミトコンドリア説が成立しないことを明らかにした」著者らの研究論文が、1994年に発表される。この論文は大きな反響があったようで、著者は1995年9月の「ユーロミット3」に招待される。そして、「老化ミトコンドリア原因説の信奉者」たちから痛烈な批判を受けることになる。この批判者のなかには、具体的な実験データもあげずに、脳や筋肉などでは老化ミトコンドリア原因説が正しいと強弁するものもいたという。著者は帰国後から取り組んだ研究により、「老化ミトコンドリア原因説は、脳組織においても成立しないこと」を証明する。
ほかにも、ミトコンドリアDNAの母性遺伝を証明していくところや、世界初となった「突然変異型mtDNAによるミトコンドリア病モデルマウス」(「ミトマウス」と名づけられた)を作り出すための試行錯誤が語られるところなど、読み応えのある話が満載。
本書のクライマックスは、「ミトコンドリア間相互作用の有無をめぐる」論争をミトコンドリア研究の第一人者と繰り広げるところ。著者が「ミトコンドリア連携説」を論じるところは圧巻だ。
ひとこと
ミトコンドリア研究がリアルに伝わってくる良書。実験の詳細が述べられるタイプの本が苦手でなければ、おすすめ。