森羅万象ーー我々はどこから来て、どこへ行くのか
書籍情報
- 著 者:
- 福岡伸一
- 出版社:
- 扶桑社
- 出版年:
- 2023年11月
著者の生命論や生物学に関する多彩な知識に触れられるコンパクトなエッセイ集
連載エッセイ「福岡伸一の森羅万象 ミステリー・オブ・ライフ」(VJAグループ発行の情報誌『VISA』/2020年5月号~2023年9+10月号)をまとめたもの(加筆・修正しているとのこと)。
ひとつのエッセイは3ページほどで、生命について、生きものが登場するもの、DNA、ノーベル賞、少年時代のこと、愛好するものなど、さまざまなテーマで綴っている。
28篇を収録した約130ページのコンパクトなエッセイ集だが、著者の生命論や生物学に関する多彩な知識に触れることができる。
以下に、どんなエッセイがあるのかを簡単に紹介してみたい。
福岡生命論のキーワード「動的平衡」と「利他性」
最初のエッセイ『いのちってなんですか?』では、この問いに対する著者の回答を示している。福岡生命論のキーワード「動的平衡」が登場。
そして、つぎのエッセイ『生命は〝時計〟』で、動的平衡についてさらに説明を加えている。「動的平衡とは、分解と合成の絶え間のない流転である」と簡潔に述べてから、その解説をはじめる。このエッセイでは、「生命は生きているときはもちろん、死んだ後でさえも時間を刻むのである。」と結んでいる。
『生命は利己的ではなく利他的』というエッセイでは、タイトルのとおり、「生命は本来利他的である」という著者の生命観を、ミトコンドリアの例を挙げながら論じている。生命の利他性も福岡生命論のキーワード。
本書では、気楽に読める短いエッセイで著者の生命観に触れることができる。
他にどんなエッセイがあるのか
上述したほかにも、生命に関するエッセイがある。『生命は左利き』では、「だんご」の喩えを用いて「D体(右手型)アミノ酸」「L体(左手型)アミノ酸」を解説し、「生物学最大の謎の一つ」を紹介している。
生きものが登場するエッセイには、たとえば『自然が作り出す〝色のフシギ〟』がある。これは、モルフォチョウと日本のニシキゴイを取り上げ、構造色や色素色について解説している。
『匂いの秘密』では、ガのフェロモンの話をして、そのあとで嗅覚の仕組みを簡潔に説明。「匂いレセプター」の種類は動物によって異なっている。ヒト、イヌ、ネズミ、ゾウのレセプターはどのくらいあるのかを紹介している。
ほかにも、アリとキリギリス(『アリとキリギリス異聞』)、シーラカンス(『謎の深海古代魚』)、ミツバチ(『〝みなしごハッチ〟の真実』)など、本書のエッセイにはさまざまな生きものが登場する。
ここまで、生命に関するエッセイと生きものが登場するエッセイにフォーカスして紹介してきたが、それ以外にも、ゲノム編集、2022年のノーベル医学生理学賞、顕微鏡とレーウェンフック、フェルメールなど、多彩なテーマで綴ったバラエティに富んだエッセイを収録している。
感想・ひとこと
著者は生物学者だが、魅力的な文体で書き記した本をたくさん世に出しており、作家として人気を博している。本書(2023年11月発行)の著者紹介によると、代表作の『生物と無生物のあいだ』(2007年)は、すでに88万部を超えている。この代表作は、福岡生命論「動的平衡」を詳細に伝え、読ませるストーリーも織り込まれているので、当サイトでもおすすめしている。
でも、〝科学本(ポピュラーサイエンス)を読むのは気が進まない〟という方もいると思う。そのような方で、エッセイが好きなら、本書『森羅万象』を手にとってみてはどうだろうか。福岡伸一の本の中でもコンパクトなエッセイ集なので、気楽に読めるし、すぐに読み終えることができる。エッセイから福岡生命論に触れてみるのもよさそうだ。