生命海流ーーGALAPAGOS
書籍情報
- 著 者:
- 福岡伸一
- 出版社:
- 朝日出版社
- 出版年:
- 2021年6月
ガラパゴス旅行記と福岡生命論、その両面をうまく織り交ぜた一冊
1835年、「後に、進化論を打ち立てて生命史に革命をもたらした」チャールズ・ダーウィンは、イギリスの軍艦ビーグル号に乗ってガラパゴスにたどり着き、探検した。
これと同じ航路をたどってガラパゴスに行くことが著者の長年の夢だった。しかし観光客として見に行くのではないため、その機会はなかなか訪れなかった。
そして、ついに本書の企画にめぐりあう。どのようにして、この企画と出会ったのか。それを多彩なエピソードを交えて綴るプロローグから始まり、本編へと続いていく。
本編では、まず、ダーウィンの旅路と著者らの旅路、それぞれの行程を示す。またビーグル号と比べつつ、著者らの乗ったマーベル号を写真も交えて案内する。ここでは、船のトイレ事情についても詳しく紹介している。旅行記的なエピソードと思うかもしれないが、この話をとおして「ピュシスvs.ロゴス」という旅のテーマの一つを浮かび上がらせている。
ガラパゴス諸島にたどり着いてからは、そこに生息する多様な生物たちが登場する。巨大なゾウガメ、ウミイグアナ、リクイグアナ、コバネウなどなど。ガラパゴスの生物たちは人間を恐れないという。なぜ恐れないのか、この生物たちはどこから来たのか、そのような考察もなされる。
また、「ガラパゴス諸島の生成過程」といった地球科学的なトピックや、エクアドルがその領有権を宣言し移住が進められた歴史にも触れている。ほかにも、ダーウィンの『ビーグル号航海記』の記述や、ネイチャー・ガイドとの会話などを織り込みながら、ガラパゴスの旅を綴っていく。旅には料理人も同行しており、その食事も写真を交えて紹介している。
本書では、旅行記らしいエピソードを披露する一方で、進化論について考察したり、著者の生命観を論じたりしている。ガラパゴス旅行記であり福岡生命論でもあり、その両面をうまく織り交ぜた一冊。
ガラパゴスの生物たちが人間を恐れない理由を考察
「ガラパゴスの生物たちは人間を恐れないだけではない。人間に興味を持っているのだ。好奇心さえ持っているといってもよい。……」。こう記してから、そう思うにいたったガラパゴスの生物たちの振る舞いを写真を交えて紹介する。そして、なぜ人間を恐れないのかを考察し、著者の生命観を論じている。
また、ガラパゴス諸島については、つぎのように述べている。「本当のガラパゴス諸島は、決して世界から取り残されてしまった場所ではない。むしろ、世界最先端の、進化の前線にあるといっていい」。「ガラパゴス諸島は決して古い場所ではない。むしろ地球史的に見ると極めて若い島々だ。……」と。
プロローグもおもしろい
上述したように、ダーウィンの旅路と同じ航路をたどってガラパゴスに行くことが著者の長年の夢だった。一度、テレビの番組企画でガラパゴスに行くチャンスがあったが、それは自ら降りている。なぜ降りたのか、どのようにして本書の企画に出会ったのか。それを綴っている長めのプロローグが、本編と同様におもしろい。
このプロローグには、学生時代にわくわくさせられた刊行物、EXPO’70、「スター編集者」や出版界事情について、書き手としての最初の一歩、著者の生命観である「動的平衡論」のコンパクトな説明とそれを小学生に伝えた素晴らしい授業など、多彩なエピソードが盛り込まれている。
感想・ひとこと
旅行記が好きな方であれば、この本をきっかけに著者・福岡伸一の生命観に触れてみるのもよさそうだ。