「こころ」はいかにして生まれるのか
著 者:
櫻井武
出版社:
講談社
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「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた
著 者:
橋本幸士
出版社:
講談社
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免疫の意味論
著 者:
多田富雄
出版社:
青土社
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ブラックホールをのぞいてみたら
著 者:
大須賀健
出版社:
KADOKAWA
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これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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皮膚感覚と人間のこころ
著 者:
傳田光洋
出版社:
新潮社
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ツチハンミョウのギャンブル

書籍情報

【単行本】
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著 者:
福岡伸一
出版社:
文藝春秋
出版年:
2018年6月
【文春文庫】
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著 者:
福岡伸一
出版社:
文藝春秋
出版年:
2021年5月

「週刊文春」の連載コラム(2015年2月5日号~2018年1月25日号)をまとめたもの。一人称「福岡ハカセ」で綴るシリーズの第五弾

本書は、雑誌「週刊文春」の連載コラム「福岡ハカセのパンタレイ パングロス」に加筆修正を加えてまとめたもの。

まえがきは、パンタレイとパングロスの言葉の説明から始まる。

パンタレイは、「哲学者ヘラクレイトスの言葉〝万物は流れる〟のギリシャ語」で、著者・福岡伸一の生命観「動的平衡」を端的にあらわしている。著者は「パンタレイ主義」の立場をとる。

パングロスとは「フランスの作家ヴォルテールの小説の登場人物で、この世界のすべては最善になるように作られているという楽天主義を語る学者の名」。「すべては宇宙の偉大なる設計者によってあらかじめ計画・配剤されている、というのがパングロス主義」だそうだ。

この正反対な二つの言葉をコラムのタイトルに並べているのは、「バランスを取る意味と、一種のシャレというか、語呂合わせ」だという。

「パンタレイ」「パングロス」という言葉の説明箇所をまず紹介したが、このコラムタイトルとその内容とはほとんど関係がない。「週刊文春」の連載コラムは、一人称「福岡ハカセ」で綴るシリーズで、生物学のみならず多彩な話題があるのが特色。第五弾となる本書もさまざまな話題が登場している。

冒頭のエッセイは、「無限に続く円周率の数列の不思議に魅了されて創作した」という「円周率小説」。円周率「3・14159265……」。ある産医師(3・14)が、異国に向こう(159265)ストーリーだ。

円周率の話題の後は、「きれいな結晶の作り方」。「ミョウバンは七つある結晶系のうち立方晶というもっとも対称性の高い結晶になる。うまくつくると同じ辺をもつ完璧な八面体構造になる(ピラミッドの底面を二つ合わせた感じ)」。この話は、アメリカ人科学者との会話から始まる。

他に、「なぞの真珠玉」「パナマ事件に巻き込まれる」といったタイトルのエッセイが綴られていく。

ノーベル賞の話題もある。1970年代、ロックフェラー大学は「黄金期」にあったという。この時代、ある日本人青年がポスドクとしてロックフェラー大学に在籍していた。青年の名前は?

たくさんのエッセイがあるので、いくつかタイトルを羅列してみる。「ダイエットの公式」「マヨネーズとピロリ菌」「ボトックスと食中毒」「テロメアのサスペンス」

「テロメアのサスペンス」は、テロメア(「DNAの一番端っこのこと」と説明される)の話から、現代アートの話へと展開していく。

まだまだ続く。「昆虫オタク」と称する福岡伸一なので、当然ながら昆虫エッセイも登場する。たとえば、「オオミズアオを育てる」というエッセイでは、幼虫の話から始まりこんな記述へ。「オオミズアオは、青白い優美な蛾で、夏の夜の女王。英名はルナ・モス。まさに月から訪れた貴種のような幽玄な雰囲気がある」。この姿を見たくなった福岡伸一は、その幼虫を持ち帰る。「月の使者が羽化してくる」と楽しみに待つのだが、詩情あふれる描写から一転、飛び出してきたものは、寄生バエだった。

つぎのエッセイのタイトルは「子どもが失踪する」。部屋で飼育していたアゲハチョウの幼虫が脱走して行方不明に。この捜索に一計を案じる福岡伸一。こう記す。「幼虫が逃走した日から十二を数えた日、カレンダーに赤丸印をつけて待った」。これは、読む人のためにネタバレはなしにしよう。

そして、つぎのエッセイが書名となった「ツチハンミョウのギャンブル」。総勢四千匹のうち、生き残れるのは一匹か二匹。ツチハンミョウの「ギャンブル」が綴られる。

昆虫好きでない私でも楽しめるエッセイがいくつもあった。

福岡伸一といえばフェルメール愛好家としても有名だ。現存するフェルメール作品37点すべてを見よう、という「巡礼」を続けている。そのルールは、「企画展として来日したときではなく、所蔵されている美術館に足を運んで、直接その場所で見ること」。このルールに従えば、個人所蔵のフェルメール作品は、その作品が属している場所(大富豪の邸宅あるいは大富豪の個人画廊といった場所)で鑑賞しなければならない。そのようなことが可能だろうか? 福岡伸一は、ある絵画の行方を追っていた。NYのある富豪が個人所蔵しているという風の噂があった「ヴァージナルの前に座る若い女」だ。これにまつわるエッセイがおもしろい。

他にも、「9・11」と関連していて思わず引き込まれてしまったエッセイ「写真の記憶」、まるで時を止めたかのような建物内の「死角」を探索するエッセイ「アメリカの均衡」、など、本書には読ませるエッセイがいくつもある。

ざっと紹介してきたが、まだまだたくさんのエッセイがある。本書はこのように多彩な話題がいくつも盛り込まれている良質のエッセイ集。最後に「付録」として、原田マハとの対談、阿川佐和子との対談が収録されている。

ひとこと

福岡伸一らしい読ませるエッセイが多数収録されている。このシリーズが好きな人は本書も楽しめるのではないだろうか。

初投稿日:2018年10月20日

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