福岡伸一、西田哲学を読むーー生命をめぐる思索の旅
書籍情報
- 著 者:
- 池田善昭/福岡伸一
- 出版社:
- 明石書店
- 出版年:
- 2017年7月
- 著 者:
- 池田善昭/福岡伸一
- 出版社:
- 小学館
- 出版年:
- 2020年12月
「ピュシス」対「ロゴス」をメインテーマとした、池田善昭と福岡伸一の対話。書名のとおり、福岡伸一が、西田哲学を自身の生命論「動的平衡」に照らして読み解いている
西田幾多郎が築き上げた「ユニークな哲学体系」は、「西田哲学」と呼ばれている。「西田は生命とは何であるかということについて本当によく考えていた哲学者の一人」だと西田哲学の研究者である池田善昭(哲学者)はいう。「西田は著書や論文の中で、きわめて高い頻度で「生命」のことについて触れて」いるそうだ。
本書では、その西田の著書や論文を、科学者の福岡伸一が自身の提唱する生命論「動的平衡」に照らしながら読み解いていく。その福岡を池田善昭がサポート。著者の二人は、西田の生命論と福岡の生命論は「重なっている」という。福岡伸一は、生命についてこう論じている。「生命とは動的平衡にある流れである」
この本は、基本的に二人の対話によって進行していく。まず、西田が目指したものについて議論する。その議論を、福岡伸一はつぎのようにまとめている。
「ヘラクレイトスが「万物は流転する」とか、「相反するところに最も美しい調和がある」と言ったように、自然本来のあり方をとらえようとする立場がある(ピュシスの立場)。一方、それを忘れて、いわゆる「存在者」というものだけでものを語ろうとする立場がある(ロゴスの立場)。プラトン以降の哲学はロゴスの立場に基づくもので、それが続いてきたことに対する一種のアンチテーゼとして、西田は「ピュシスの世界に還れ」という旗印を言わば行間に掲げて、独自の考えを深めていった」
上記のような、「ピュシス」対「ロゴス」という本書のメインテーマがまず示される。つぎに、西田の用いた言葉を見ていく。「純粋経験」「行為的直観」「自覚」「絶対矛盾的自己同一」「逆限定」「歴史的自然の形成作用」、など。福岡伸一が、「逆限定」の説明に納得できず、進行が停滞する一幕もある。
西田の言葉が説明されたあと、福岡伸一が、西田の『生命』を自身の生命論に照らして読み解く。そして二人の対話は、「時間論」「統合学」へと展開していく。
(「統合学とは、理系と文系、西洋と東洋、サイエンスとヒューマニティなど、二つに大きく分断されてしまっている人類の知恵をもういちど統合しようとする試み」とのこと)
この本の大まかな流れは、上記のようなもの。
本書は哲学者(池田善昭)と科学者(福岡伸一)の対話本だが、内容的には、自然科学の本というより、哲学の本という印象をもった。本書のNDC分類も121(日本思想)で、大分類は「哲学」。西田哲学への興味が喚起される一冊と言えそうだ。
ひとこと
NDC分類は哲学だが、著者のひとり福岡伸一が生物学者なので、動的平衡論の本として「生物」に入れた。
本書においても、『新版 動的平衡』(小学館新書)と同様の骨子の「動的平衡の数理モデル」が提示されている。