ルリボシカミキリの青ーー福岡ハカセができるまで
書籍情報
- 著 者:
- 福岡伸一
- 出版社:
- 文藝春秋
- 出版年:
- 2012年9月
エッセイ集。センス・オブ・ワンダーの瞬間を描く。少年時代や学生時代を叙情的に綴る。学び、教育を語るなど、多彩な話題がある
「週刊文春」の連載エッセイの最初から70回ぶんほどを、「再構成・再編集し、手を加えて」まとめたもの。
プロローグは、少年少女に語りかけているような雰囲気で、何かひとつ好きなことがあること、それをずっと好きであり続けられることの大切さを綴っている。こんなふうに述べている。
「今、君が好きなことがそのまま職業に通じる必要は全くないんだ。大切なのは、何かひとつ好きなことがあること、そしてその好きなことがずっと好きであり続けられることの旅程が、驚くほど豊かで、君を一瞬たりともあきさせることがないということ。そしてそれは静かに君を励ましつづける。最後の最後まで励ましつづける」と。
エッセイの内容は、週刊誌の連載エッセイらしく、多彩だ。
たとえば、生命とは何かを語るうえでの著者のキーワード「動的平衡」について、「GP2」の機能の発見(科学専門誌『ネイチャー』に掲載された)、ノーベル賞にまつわる話がある。
少年時代や学生時代の話も登場する。これらは、福岡伸一らしい叙情的な描写で綴っている。
小説の話題もある。村上春樹の『1Q84』を福岡伸一はどう読んだのかを語っている。川上未映子の話題もあり。
小さい頃に愛読していた絵本『海のおばけオーリー』と、カミツキガメを結びつけて綴ったエッセイもある。
「プロセス・オブ・パラレルターン」というエッセイには、こんな言葉がある。「教育。学び。子育て……あるいは私たちの人生そのものも。そこに効率はなく、プロセスだけがある。そして大切なのは一進一退のプロセスをいつくしむということなのだ」
本書は、「教育」「学び」にまつわるトピックもある。この連載エッセイにおいて著者の胸中にあった「隠しテーマ」とでも呼ぶべきものが、教育、学びについてだった。
ほかに、Y染色体、「空目」、狂牛病、コラーゲン、「アサギマダラの謎」、卑弥呼にまつわる話、「光陰矢のごとし仮説」、「なつかしさとは何か」、「数学の矛盾」などの話題がある。
そして最後、エピローグの前にあるエッセイは、書名にもなっている「ルリボシカミキリの青」。著者の「センス・オブ・ワンダーの瞬間」を描いている。
ひとこと
読ませるエッセイを多数収録。単行本は2010年4月に刊行されている。