動的平衡2ーー生命は自由になれるのか
書籍情報
- 著 者:
- 福岡伸一
- 出版社:
- 木楽舎
- 出版年:
- 2011年12月
- 著 者:
- 福岡伸一
- 出版社:
- 小学館
- 出版年:
- 2018年10月
遺伝子には「自由であれ」という命令が含まれている。著者が唱える生命観「動的平衡」を多彩な切り口で論じる『動的平衡』の第2弾
最後の頁を見ると、本書は、著者が5つの紙誌に「発表した原稿に加筆、修正を加え、再構成したもの」であることがわかる。同じ木楽舎より刊行されている『動的平衡』の第2弾。やはり、通奏低音となっているのは動的平衡という生命観であるが、今回は副題にみられるように「生命は自由になれるのか」をテーマにしているようだ。
「生命の定義は長らく、そして今現在も「自己複製するもの」とされている」が、著者は「生命現象を特徴づけるものは自己複製だけではなく、むしろ合成と分解を繰り返しつつ一定の恒常性を維持するあり方、つまり「動的平衡」にあるのではないかと考え」ている。
本書はまず第1章冒頭で、リチャード・ドーキンスの「宣言」をとりあげる。「生命の唯一無二の目的は子孫を残すことである。そして自己複製の単位はとりもなおさず遺伝子そのものである。遺伝子は徹底的な利己主義者である。自らを複製するため、遺伝子は生物の個体を乗り物にしているにすぎない」
この「宣言」に対して著者は、「私たちはもう少しリラックスして生命を捉えなおすべきではないだろうか」という。著者はこう論じる。遺伝子には「産めよ殖やせよ」という命令だけでなく、「自由であれ」という命令が含まれていると。この意味は「同じ楽譜であっても、演奏者によって音楽が千変万化するのに似ている」という。ここで著者は、バッハの音楽などをとりあげている。
「生命は自由になれるのか」という副題は魅力的だ。もし、福岡伸一がこのテーマで本書を「書き下ろし」たなら、どんな本になっていたのだろうか。それが読み終えて最初に思ったことだった。しかし本書は、前述のとおり、各紙誌に寄稿したものを再構成しているので、このテーマで一貫しているわけではない。
本書の話題は多彩だ。しかし、遺伝子と動的平衡をキーワードにして、うまく統一感をだしている。話題としては、生物多様性、窒素の循環、大腸菌、「RNAワールド」仮説、ヒトフェロモン、エピジェネティクスなどがある。福岡伸一の卓越した描写はもちろん健在だ。
ひとこと
写真の話題のところを引用しておきたい。「つまらない写真は、あらかじめ用意された形におさまった写真。では、面白い写真は?」という問いへ、著者はこう回答した。「そこに流れ込んだ時間を内包しつつ、次の一瞬への動き再開を予感させる写真」と。「そのような写真だけが、時間を解凍し、本来の動的平衡の有り様に気づかせてくれるから――。」(第4章のラスト)