やわらかな生命
書籍情報
- 著 者:
- 福岡伸一
- 出版社:
- 文藝春秋
- 出版年:
- 2013年8月
- 著 者:
- 福岡伸一
- 出版社:
- 文藝春秋
- 出版年:
- 2016年3月
気軽に読めて、メモしておきたいような話題が満載のエッセイ集
「週刊文春」(2011年9月15日号〜2013年4月18日号)の連載エッセイをまとめたもの。69のエッセイがあり、それぞれ3ページ弱程度のボリューム。生物学の話題はもちろん、絵画、建築、音楽、教育など、多彩な話題が盛り込まれている。
ざっと内容を挙げてみると、免疫、「トンボの体位」、「粘菌・3つのナゾ」、カタツムリとナメクジは進化上どちらが先輩か、「肥満の遺伝子」、老化、著者が尊敬する研究者フレデリック・サンガーの話題、記憶。
ほかにも、日本万国博覧会(EXPO’70)跡地と岡本太郎の『太陽の塔』『明日の神話』の話題、エアーズロック、科学史上に残る詐欺事件「ピルトダウン人発見」の話題、超巨大エレベータ、地図、ヴェネツィア、などなど。
スティーブ・ジョブズの有名なスピーチの話題もある。著者は今も大事にとってあるという「マックSE30」やアメリカでの研究修業の話題と絡めて、ジョブズのスピーチに触れる。
福岡伸一の本にたびたび登場するレーウェンフックやフェルメールの話題ももちろんある。「青」という色彩を切り口としてフェルメール、北斎、宮沢賢治を語っている。宮沢賢治の青を語るところには、「生命の色」という見出しがついている。
多彩な切り口で綴られるエッセイ集だが、そのいくつかは「動的平衡」という著者の提唱する生命観と結びつけて語られている。
その動的平衡を直接語っているのが「シジフォスの労働」という見出しのエッセイだ。ここで著者は、エントロピー増大の法則に抗う動的平衡の営みを「シジフォスの巨石運び」にたとえた。エントロピー増大の法則とは何か、動的平衡とは何かが語られる。そして、著者は最後にこう述べる。「やがてエントロピー増大の法則は、動的平衡の営みを凌駕する。それが個体の死である」と。著者はこれをネガティブなメッセージとして届けているわけではない。続けてこう述べている。
「人の心は変わるということ。人は必ず死ぬということ。このあまりにも当たり前の事実を思い出すだけで、たいていのことはやり過ごすことができる」
ひとこと
本書のジョブズのスピーチのところを引用しておきたい。「点と点がどのようにつながるのか。事前にそれを見通すことは決してできない。後になってからはじめて、それが意外な線で結ばれることがわかる。だからこそ、君たちはなんでも、直感、運命、人生、カルマ、その他なんでもいいから、いつか点と点がつながることを信じて進む以外にないんだ」
本書は、気軽に読めて、メモしておきたいような話題が満載のエッセイ集。