せいめいのはなし
書籍情報
- 著 者:
- 福岡伸一
- 出版社:
- 新潮社
- 出版年:
- 2014年11月
福岡伸一が「動的平衡」をキーワードに、内田樹、川上弘美、朝吹真理子、養老孟司と対談する
動的平衡とは、「生命のありよう、自然の振る舞い方について、たえまなく要素が変化、更新しながらバランスを維持する系のこと」。これは、生命とは何かに対する福岡伸一の提言だが、この動的平衡の考え方を他分野にも「拡張」して考えるということが、この対談では行われている。単行本は2012年4月に刊行された。
内田樹との対談
思想家の内田樹は、「経済って、本質的に動的平衡なんじゃないかな」と述べ、その本質を「ものがグルグル回っていくこと」と捉える。クラ交易の事例をあげながら、「グルグル回す」をキーワードに論じる。内田樹は、「贈与経済の復権」を提案する。これは「要するに、受け取ったものはどんどん次にパスしましょうよ」ということだと語る。
川上弘美との対談
作家の川上弘美は、大学では生物学科を出ており、生物の教師を4年くらいしていたそうだ。生態系の授業が一番好きで、それは「生物をかたちづくる物質は死後も世界を循環するという考え」を、「宗教的な意味でなく、具体的な物理現象として」伝えられたからだという。そして彼女は、じつはこの循環が「生きている間」にも行われていること、つまり動的平衡のことを、福岡伸一の本で知ったという。川上弘美は、「時間」がもたらす「唯一無二性」を、小説を書くことに引き寄せながら語る。また二人は、「部分」をキーワードにして、作家の、生物学者の見地から語り合う。
朝吹真理子との対談
作家の朝吹真理子との対談では、「設計的にこの世を見るか、動的な、発生的なものとして、この世を見るか」という2つの視点についての語り合いが印象に残る。また、記憶についての話も興味深い。「記憶とはその瞬間瞬間で新たに作られているもの」で、その意味で動的なものだという。ここでは、本書のタイトルのもとになっている『せいめいのれきし』という絵本の話題も登場する。
養老孟司との対談
解剖学者の養老孟司との対談は、虫の話からはじまり、「擬態」についての話となる。つぎに「形態と意識の関係について」深く語り合う。養老孟司は、「生物の形態というのはまさに「動的平衡」なんです」と述べる。しかしこの動的な状況は忘れられており、その原因に「意識」があるという。「人間の意識というのは、実は「止まっているもの」しか扱えない」と述べ、これを情報化社会と結びつけながら論じる。また、「言葉とは何か」についても語り合う。
ひとこと
気軽に読むというよりも、思考をめぐらせながら読む、どちらかといえばそんなタイプの本だと思う。