インターネット上のコミュニケーションと節足動物。『皮膚はすごい』(傳田光洋)のちょっとした感想
『皮膚はすごい』(傳田光洋)の書評を更新してから1週間くらい経ちますが、ときどき脳裏に浮かび上がってくる話題があります。書評ページでは触れなかったので、ここにちょっと追記しておこうと思います。
本書の最後に、インターネットのような情報技術についての見解が示されています。著者は、その利便性について述べて、「肯定」します。肯定したうえで、つぎのように記しています。
「しかし、現在の技術でコミュニケーションをとれるのは視聴覚情報だけなので、それだけですべてを判断する危険性もあるでしょう。それではまるでアリやハチのような節足動物です。……」
この箇所だけだとわかりにくいと思いますので、節足動物の「皮膚」にまつわる説明のところも引用します。
「節足動物は、皮膚感覚を捨てた代わりに、外の情報を得るために五億年以上前から、今の昆虫のような複眼を持っていますし、あるいは皮膚の「触覚」の代わりに「触角」を持っていて、それで外の情報を得ています。」
つまり、最初の引用箇所は、視聴覚情報だけで判断する危険性、すなわち皮膚感覚なしに判断する危険性を、「皮膚感覚を捨てた」節足動物に喩えているのだと思います。
インターネット上は、身体同士が直接対面しないコミュニケーションです。私たちは、そこにリアルの場との大きな違いがあることを知ってはいますが、しかし普段、明確に意識しているかというと、そうでもないような気がします。
そこで、「皮膚感覚を捨てた」節足動物の喩えです。インターネット上のコミュニケーションでは皮膚感覚による判断ができない、それではまるでアリやハチのような節足動物ではないか、と。こんな冗談めいたイメージをもってみると、〝インターネット空間におけるコミュニケーションは、人間にとってかなり特殊な状況で行っているもの〟ということを思い出しやすいかもしれません。
節足動物の喩えはユニークで、読み終えた直後に思っていたよりも強く印象に残ったようです。ちょっと長いので、書評ページの感想のところではなく、ここに追記してみました。
『皮膚はすごい』では、さまざまな動物・植物の「皮膚」を見ていき、皮膚と脳の観点から人間を考察しています。