進化しすぎた脳ーー中高生と語る「大脳生理学」の最前線
書籍情報
- 著 者:
- 池谷裕二
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2007年1月
ライブ感あふれるおもしろさ。神経のしくみもしっかりと解説する本格的な脳講義
高校生を相手に行われた脳講義(全4回)。少数の生徒との双方向的なやりとりはライブ感にあふれている。生徒の疑問に答えるかたちで、話題はどんどんふくらむ。意識とは何か、記憶のあいまいさ、アルツハイマーのしくみなど、いくつもの話題が知的な脱線をまじえて展開される。
『進化しすぎた脳』の初刊本は、2004年に朝日出版社より刊行された(第1〜4章までの高校生たちへの講義)。本書ブルーバックス版としての再登場に際して、第5章(著者の所属する研究室のメンバーたちへの講義)が追加された。
「ネズミをラジコンにしてしまった」という論文
脳を刺激して生きたネズミをラジコンのように自在に操縦した、という論文を紹介し、「ネズミの脳を刺激して、人間がネズミの行動をコントロールするには、どうしたらいいと思う?」と生徒たちに問いかける。この話題は、自由意志とは何か、といった話につながっていく。
脳は「宝の持ち腐れ」
たとえば人差し指と中指がつながったまま、4本の指で生まれる人がたまにいる。この場合、脳には5本目の指に対応する場所がない。この指を分離手術すると、5本の指は別々に使えるようになり、脳には5本目の指に対応する場所ができている。
こうした事例をあげ、「脳の地図は脳が決めているのではなくて体が決めている」と述べる。「脳の機能は、体があって生まれる」。脳の潜在的な能力はすごいが、それに比べて人間の体の性能が悪いため、脳は「宝の持ち腐れ」になっているという。脳は「過剰に進化してしまった」という見解が述べられている。
意識と無意識を考える
まず、錯覚や盲点の実験、目の構造の解説などを通して「見る」という行為が「無意識の現象」だと述べる。そのあとで「意識とは何か」を考えていく。著者は意識の最低条件として「表現の選択」「ワーキングメモリ(短期記憶)」「可塑性(過去の記憶)」の三つをあげる。「言葉」は、意識の典型だが、「どこまで自由な意志によって言葉が発せられているか」という点から考えると、「反射」に近い部分もあるという。自由意志、クオリアという、意識を語るうえで欠かせない要素を含めながら、この難題に対する著者の意見が述べられている。
人間の記憶はあいまい
記憶があいまいであることは、「脳の応用力の源」だという。たとえば、「想像」や「創造」ができるのは、「あいまいさ」があるからこそだと。この「あいまいさ」を生みだすもとは、シナプスにあるそうだ。このことを説明するために、神経のしくみを生徒たちの質問に答えながら詳細に解説する。
ひとこと
池谷裕二の著書のなかでもとくに好評。脳の入門書としておすすめ。