ミラーニューロンの発見ーー「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学
書籍情報
- 著 者:
- マルコ・イアコボーニ
- 訳 者:
- 塩原通緒
- 出版社:
- 早川書房
- 出版年:
- 2011年7月
さまざまな角度からミラーニューロンを語り尽くした一冊
ミラーニューロンは、自分が行動するときに活性化するだけでなく、他人が同様の行動をするのを見ているときにも活性化する。まるで「他人を自分の脳内に投影しているかのよう」であり、この脳の活動は、脳内模倣、シミュレーションなどとも表現される。ミラーニューロンの働きは、他者の意図の理解、共感、自己認識、言語、模倣などにおいて重要であるという。また、著者はミラーニューロンの特性を、現象学や実存主義に重ね合わせて論じる。ほかに、「ニューロマーケティング」「ニューロポリティクス」などの話題もあり、幅広い視点からミラーニューロンを解説している。
模倣に焦点があてられている
「模倣は人間の行動の普遍的な特徴」と現在では見なされているようだ。本書では、模倣と共感に強い相関関係があることや、言語の出現や獲得における模倣の役割などが述べられている。アンドルー・メルツォフの研究によれば、新生児は「ごく簡単な手ぶりや顔の表情を本能的に模倣する」そうだ。このデータを解釈すれば、新生児は「模倣によって学習する」ことになるという。また、自閉症児にみられる模倣障害に着目し、自閉症のミラーニューロン機能不全説をとりあげている。ほかに、メディア上の暴力への頻繁な接触がミラーニューロンの特性により実際の暴力につながるのかどうか、「模倣暴力」を考察している。
ミラーニューロンはいつどのように形成されたのか。自己と他者は「コインの裏表」
メルツォフの新生児の模倣に関する研究から、一部のミラーニューロンは生まれつき存在すると思われるが、ミラーニューロンシステムの大半は「自己と他者との模倣による相互作用を通じて、とくに生後初期に形成される」と著者は考えている。たとえば、赤ん坊が笑えば親も笑う、というような相互模倣によって。この時期の赤ん坊は、独立した「私」という意識よりも、未分化の「私たち」(赤ん坊と親)という意識をもっているようだ。ミラーニューロンの形成過程が著者の仮説通りなら、自己と他者は「ミラーニューロンの中で不可分に混じりあっていることになる」という。自己と他者は「同じコインの裏表」という見解が示されている。
ひとこと
著者は脳撮像実験を駆使してミラーニューロンを研究しており、本書にはさまざまな脳撮像実験が登場する。ミラーニューロンの発見者として知られるジャコモ・リゾラッティは著者の友人。