ミトコンドリアが進化を決めた
書籍情報
- 著 者:
- ニック・レーン
- 訳 者:
- 斉藤隆央
- 解 説:
- 田中雅嗣
- 出版社:
- みすず書房
- 出版年:
- 2007年12月
ミトコンドリア研究の知見に基づいて生命進化を描きだす。そこに浮かび上がるのは、不可思議で巧妙な生命のしくみ
現代の進化論によると、いま知られている多種多様な生物は、たったひとつの生命体に由来し、約40億年の歳月をかけて進化してきた。
この長い生命進化の歴史において重要な出来事が、真核細胞の誕生だという。私たちのような多細胞生物は、真核細胞でできている。真核細胞の誕生は、「全生命史を通じて最高にありそうにない出来事」だったようだ。そして本書によると、最初の真核細胞は、メタン生成菌とミトコンドリアの祖先であるα−プロテオバクテリアの融合の産物だという。
「どんな真核細胞も、ミトコンドリアをもっているか、かつてはもっていた(その後失った)ようだ。言い換えれば、ミトコンドリアの所持は、真核生物の必須条件となっている」と著者はいう。
ミトコンドリアは、核にあるDNAとは異なる独自のミトコンドリアDNAをもつ。また、外膜と内膜の2枚の膜があり、内膜は「複雑に入り組んで、「クリステ」という無数の襞や管を形成している」。この内膜で細胞呼吸がおこなわれ、「エネルギー通貨」とも呼ばれるATPが合成されている。
細胞呼吸のしくみの解明に貢献した人物のひとりが、ピーター・ミッチェルだ。本書は、ミッチェルが提唱した「化学浸透圧説」と、細胞呼吸の際に生じるフリーラジカルの役割を解説し、これらを軸に進化を論じていく。読み進めるうちに、不可思議で巧妙な生命のしくみが浮かび上がる。
最初の生命はどのようにして誕生したのか、真核細胞はどのようにして誕生したのか、なぜ細菌は単純なままなのか、なぜふたつの性があるのか、内温性はどのようにして生まれたのか、などなど、多彩な話題がある。老化と死にも踏み込んで論じている。訳者あとがきも含めて476ページの大著。
ひとこと
刺激的な本ではあるが、細胞生物学の基礎知識がないと読むのは大変だと思う。著者はこう述べている。「ごく最近の研究の成果を論じる際には、どうしても多少の専門用語が必要になり、細胞生物学の基礎は知っていることを前提とせざるをえなかった。用語の知識があっても、なお難解に思えるところがあるかもしれない。だが苦労するだけの価値はあると私は思う」と。
エピローグで、本書の主張を要約しているので、ここを先に読むのもありかもしれない。