宇宙論の分野に登場した「人間原理」とは?
まるで人間の誕生が必然であったかのように見えてくるほど、この宇宙は人間にとってあまりにもうまくできている
「人間原理」という言葉はちょっと奇妙で、そのぶん印象に残る。科学の言葉とは思えない奇妙さがあるが、「コペルニクス原理」に対抗するかたちで提唱されたらしい。
人間原理というのは、「宇宙はなぜこのような宇宙なのか」を、人間(知的生命体)の存在条件によって説明しようとする考え方のことのようだ。
「宇宙はなぜこのような宇宙なのか」という問いは、こんなふうに言い換えられるという。「あれこれの物理定数は、なぜ今のような値になっているのだろうか?」(講談社現代新書、青木薫著『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』)と。
人間原理の考え方を用いた事例として、素粒子物理学の第一人者スティーヴン・ワインバーグの話がよく紹介される。ワインバーグは、人間原理の考え方を使って、真空エネルギーの値を予測した。
ワインバーグはこんな考え方をしたらしい。「自分という人間が現に存在していることと矛盾しないためには、宇宙の真空エネルギーはどんな値でなければならないだろうか?」(『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』)。この人間原理の考え方を用いた予測は、のちに観測結果によって支持されたそうだ。
人間原理は、宇宙が無数にあるという「マルチバース」を前提として、支持を集めつつあるようだ。しかし、人間原理を否定する物理学者も多いらしく、物理学者のあいだには、肯定派と否定派の論争があるらしい。
「人間原理」というちょっと変わった切り口で、この宇宙を眺めてみるのもおもしろいかもしれない。
人間原理を知る書籍
『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』
科学書の著名な翻訳家であり、また理論物理学を専門とする博士でもある青木薫が、宇宙観の変遷をたどりながら「人間原理」を描き出している。人間原理のみをとりあげているわけではない。
- 著 者:
- 青木薫
- 出版社:
- 講談社
『宇宙を支配する6つの数』
6つの数「N」「ε」「Ω」「λ」「Q」「D」をとりあげ、これらが今の値と異なると宇宙の姿も異なり、そして私たちが存在できない宇宙になりうる、ということを論じている。この本は、6つの数を切り口にして、宇宙の進化を描き出したもの。人間原理とは何かを直接解説している本ではないが、〝この宇宙は人間にとってあまりにもうまくできている〟という意味がよくわかる。
- 著 者:
- マーティン・リース
- 出版社:
- 草思社
『宇宙は無数にあるのか』
インフレーション理論の提唱者である佐藤勝彦が、「人間原理」を軸に、宇宙論のめぼしい話題を紹介している。上述したマーティン・リースの「6つの数」の話もあり。人間原理のみをとりあげているわけではない。